第57回日本作業療法学会

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教育

[PR-4] ポスター:教育 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PR-4-6] 学生に教科書を参照させるためには?

小泉 雄一 (東京福祉専門学校作業療法士科)

【序論】第18回東京都作業療法学会において「学生は教科書を参照できないか?」と題して,教科書に関するアンケート調査を学生に行い,教科書を使えていない現状を報告した.読解力や発達の視点から考察し,具体的な参照の指示など,参照のための工夫の必要性が示唆された.そもそも,教科書は見てないのではないか?という疑問からこの研究を始めた.今回,授業の中で教科書を頻繁に参照させ,最後に教科書に関するアンケート調査を行った.前回の調査結果を踏まえて若干の工夫点を加え,質的に分析した結果も含めて,考察したことを報告する.
【方法】当校,Y年度作業療法士科第1学年(22名)に対して,筆者が担当する授業「精神医学」の中で,授業資料が教科書のどこに相当するのかを示しながら授業をした.授業後の確認テストとしての小テストや最後の定期テストも教科書のみ持ち込み可とし,教科書を参照しながらテストに回答するよう呼びかけた.最後の定期テスト後に,この科目は教科書をしっかり見てもらう授業であったことを再確認した後で,前回X年度作業療法士科第1学年(30名)の時と同様に,教科書に関するアンケート調査を行い,X年度とY年度との比較検討を行った.5段階評価の比較検討にはMann-Whitney U-test,自由記述の比較検討にはKH Coderによるテキストマイニングを用いた.本研究は,東京福祉専門学校研究倫理委員会の承認を受けて実施した.
【結果及び考察】授業出席率:Y年度99%(X年度91%),アンケート回収率:Y年度100%(X年度90%)
教科書を参照する声かけを多くし,教科書を参照して答える小テストもよく見て判別させる選択肢にしたことで,より教科書を参照している印象を受けたが,アンケート調査結果の比較検討では有意な差は見られなかった.アンケート①この教科で教科書を使ったか?の質問にはX年度は約9割の学生が使っていたのに対し,Y年度ではほぼ全員教科書を使っていた.アンケート②これからも教科書を使うか?については,X年度は89%,Y年度は96%であった.アンケート③この教科書はわかりやすかったか?については,どちらの年度も約2割の学生がわかりにくかったと回答をしている.アンケート④この教科は大変だったか?については,X年度は約5割の学生が大変だったと回答したのに対し,Y年度は3割の学生が大変だったと回答している.自由記述をテキストマイニングによる共起ネットワーク分析でみると,頻出の単語「教科書」に対して,X年度は「授業」「活用」「思う」,Y年度は「授業」「見る」「思う」という単語が共起関係であり,更にY年度では「大事」「線」「マーカー」「引く」など多くの共起関係がみられた.教科書を参照させるために様々な工夫を授業の中でしてきたが,まだまだ工夫の必要性を感じる.内田(2009)は,若い世代の人は意味が分からないことにストレスを感じない,鈍感になるという戦略を無意識的に採用し,これが学力低下に繋がっている,と指摘している.必要性を感じさせるだけでなく,具体的な探索方法を示していく必要がある.現代の若者の学力低下はよく取りざたされているが,教科書を見ればわかる楽しさ,授業を聞けば理解できる喜びに繋げる工夫を重ねることで,「学ぶ」意欲,「学ぶ」楽しみに繋げてあげたいと考える.
【結語】今回,学生が教科書を参照できないのでは?という疑問から,担当する授業を通して,教科書を参照させ,アンケート調査をし,前年度の結果と比較検討した.明確な差を出すことができず,まだまだ教科書を参照させるという工夫の必要性があることが示唆された.若者世代の特徴的な「読解力」により,全体的な学力低下にも繋がっているのであればなおさら取り組むべき課題であると再認識した.