第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

教育

[PR-7] ポスター:教育 7

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PR-7-2] 認知症患者に対する認知およびBPSDの困難感が作業療法学生の態度に与える影響

黒川 喬介1, 板倉 麻紀2, 久保田 智洋3 (1.帝京科学大学医療科学部作業療法学科, 2.関東リハビリテーション学校作業療法学科, 3.アール医療専門職大学作業療法学科)

【序論】認知症は作業療法学生(以下,学生)が臨床実習で対象となりうる可能性の高い疾患である.そんな中,学生は認知症患者に対して表面的な交流に終始して双方向の関係を築くことが難しく,適切な態度をとることが叶わない場合がある.これまでの研究から認知症患者への態度がネガティブに働く要因にはBPSEが関与していると言われている.また,態度形成の過程として,Solomonは,認知,感情,行動の3つの要素が段階的に形成されるといった「標準的学習階層モデル」を示している.学生の認知症患者への態度も認知と感情を経て形成されると仮定すれば,臨床実習において,学生が認知症患者に対して適切な態度をとるための教育を検討するためには,認知症患者に対する『認知』とBPSDに対する困難感(以下,『困難感』)が『態度』に与える影響を把握することが必要であると考える.【目的】臨床実習前の学生の『態度』に影響する要因間の関連や影響度について,共分散構造分析を用いて因果モデルを明らかにする.【方法】調査期間は2021年12月から2022年6月にて質問紙法による集団調査を行った.3週間以上の臨床実習を経験した者を除く学生358名を対象とした.調査は,認知症患者に対する顕在的認知を測定する質問(Images of the Elderly Scale;以下,IES),認知症に関する態度尺度(Attitude toward Dementia Scale:以下,ADS),BPSDに対する困難感尺度(BPSD Difficulty Scale;以下,BDS)を用いて調査を行い,それぞれの尺度を得点化し分析を行った.倫理的配慮については国際医療福祉大学研究倫理審査委員会において承認を得た(承認番号20-Ig-78).【結果】学生のIES値の平均値は中立点以下であり,検定値=3とする帰無仮説は棄却された.学生の『困難感』が『認知』に与える影響を検討するため,IES値を従属変数,BDSの全項目を独立変数とする重回帰分析を行った.その結果,「職務妨害」「まつわり」「誣告」「暴言・暴力」の4項目に有意な影響がみられた.この4項目から成る1因子を『困難感』を表す潜在変数として『認知』と『困難感』が『態度』に影響を及ぼす仮説モデルを作成し,ADS値に至るIES値と困難感の影響度を共分散構造分析にて調べた.結果,IES値から直接ADS値に向かう標準偏回帰係数は0.12であり,困難感からADS値に向かう標準偏回帰係数は-0.72であった.またIES値から困難感を介してADS値へ向かう間接的効果は0.49であった.【考察】共分散構造分析の結果,『認知』から『態度』に向かう影響よりも『困難感』から『態度』に向かう影響の方が大きく,更に『困難感』を介して影響を及ぼす程度の方が大きかった.認知とは人間の情報処理における知覚,注意,記憶,思考などのすべての要素が複雑に関係しあって成り立っているため『認知』自体が変容し難く,『態度』の変容にも影響を及ぼし難いものと推察される.これに対し感情は,快・不快等の情緒的側面という比較的単純な要素から成り立っていることから変容し易いと考えられる.このため,『困難感』は『態度』の変容にも影響を及ぼしやすいと推察される.一方で学生の『認知』は『困難感』を感じるとより強く『態度』に影響することが示唆された.【結語】臨床実習前の学生の『態度』の変容を促すための教育としては,『認知』に直接アプローチするよりも『困難感』の軽減を図ることに焦点を当てる必要があることが示唆された.