第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

教育

[PR-9] ポスター:教育 9

Sat. Nov 11, 2023 12:10 PM - 1:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PR-9-5] 精神障害領域で働く作業療法士の学術研究参加の阻害要因の検討

佐藤 範明1, 鈴木 久義2, 鈴木 哲理3,4 (1.昭和大学保健医療学部作業療法学科, 2.昭和大学大学院保健医療学研究科, 3.昭和大学大学院保健医療学研究科博士後期課程 精神障害リハビリテーション領域, 4.放課後等デイサービス アトリエあいだっく川崎)

【背景】
日本作業療法士協会では2018年に「作業療法の定義」が改訂され,作業療法を取り巻く情勢は変化している.
また,有資格者数は10万人を超え,需要推計も増加し,作業療法のエビデンス構築に向けた研究活動の発展は今後より求められると考えられる.しかし,協会員数の増加率に比べ論文数の増加は滞り,日本における作業療法士(以下:OTR)の学術研究の課題として,量および質,体制が指摘されている.特に海外では精神障害領域(以下:精神科)は学術研究が乏しいとされているが,わが国の精神科におけるOTRの学術研究に対する課題を明らかにした報告はない.本研究の目的は,精神科に従事するOTRの学術研究の参加の阻害要因を明らかにし,今後の学術研究促進に向けた課題を検討することである.
【対象および方法】
対象は精神科に従事するOTRで,臨床経験年数が5年以上かつ学術研究の参加経験が1度もない者11名とした.学術研究の定義は「能動的な学術研究参加」とし,認定資格の取得や必須研修による学術研究は含まないこととした.研究期間は2021年8月10日から2022年3月31日までであった.対象は雪だるま式標本法を用いて選出され,データは1対1の半構造化面接法にてインタビューガイドを用いて収集された.面接では「精神障害領域で働く作業療法士の学術研究参加の阻害要因」について“学術研究の参加をどう考えているか”,”学術研究の参加が難しくなっている,または参加しない理由”を尋ねた後,逐語録を作成した.データの前処理として,テキストの正規化,ストップワードの設定を行った.データ分析はテキストの潜在的意味を推定するトピックモデルの一種であるLatent Dirichlet Allocationを用いた.また,トピック数はPerplexityとCoherenceの値から検討した.分析には,日本語形態素解析エンジンMeCabVer.0.996とMeCab ipadic-Neologd,プログラミング言語であるpython3を使用した.なお本研究は,所属施設倫理委員会の承認を得ている.
【結果および考察】
対象は男性5名,女性6名であった.OTRとしての経験年数は5年から15年であり,インタビューの所要時間は32分01秒から52分13秒であった.全テキストデータは826の文章から構成されており,データの前処理の結果,単語は564単語から構成されていた.Perplexity値とCoherence値の結果から,最適トピック数は2と推定された.トピック1のトピック上位10単語は[研究],[発表],[一人],[機会],[参加],[精神科],[勉強],[生活],[臨床],[大変]で構成され,トピック2のトピック上位10単語は[評価],[患者],[環境],[作業療法士],[相談],[学会],[個人],[準備],[精神科],[異動]で構成されていた.トピック1は全テキストデータのうち約52%,トピック2は全テキストデータのうち約48%の割合で構成されていた.トピック1の上位10単語から”日々の臨床,生活が大変なため,一人で研究に参加することが難しい”といったトピックであると解釈した.さらに,トピック2の上位10単語から”精神科の評価は難しく,また,相談できる環境がなかった”といったトピックであると解釈した.
【結論】
精神科に勤務するOTRの学術研究の参加を阻害する要因として”日常生活の忙しさに加え,日々の臨床では精神科の評価が難しく,相談ができる環境が備わっておらず,一人で研究や発表に挑戦する機会を失っていた”ということが推察される.精神科におけるOTRの学術研究促進に向けて,ワーク・ライフ・バランスを整えるとともに,評価技術の習得,そしてOTR同士の横の繋がりや相談できる環境が必要である.