第57回日本作業療法学会

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ポスター

教育

[PR-9] ポスター:教育 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PR-9-8] 作業療法士養成課程におけるSOGI教育が学生の知識・態度に与える影響

松本 武士1,2, 高島 理沙3, 星野 藍子4 (1.平成医療福祉グループ 医療法人社団大和会 大内病院包括型地域生活支援(ACT), 2.にじいろリハネット, 3.北海道大学大学院 保健科学研究院 リハビリテーション科学分野, 4.名古屋大学大学院 医学系研究科 総合保健学専攻 予防・リハビリテーション分野)

【背景】 SOGI(Sexual Orientation & Gender Identity:性的指向と性自認)はアイデンティティの中核的要素であり,人の作業に影響を及ぼす(Devine & Nolan, 2011,Beagan et al., 2012).LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)等のSOGIのマイノリティは偏見によるストレスから健康を損ないやすい(Meyer & Northridge, 2007).しかし,これらの内容は養成カリキュラムに含まれておらず,作用療法士の学習機会は乏しい.
【目的】 SOGI教育が作業療法学生の知識,態度に与える影響を検討する.
【対象】 作業療法士養成校の学生38名(A大学21名,B大学17名)とした.
【方法】 A大学,B大学にて「性の多様性と作業療法」という講義を実施した.内容は,基礎知識,LGBTを取り巻く社会状況,SOGIと医療,SOGIと作業療法,マジョリティ特権論,今日からできること,とした.講義時間はA大学360分,B大学270分で,それぞれ1/3はグループディスカッションとした.
 量的データとして講義前後に以下の内容を収集した:基本情報,知識の所持量,知識の必要度,正誤問題,アウェアネス,LGBTに対する印象,取り扱い難易度,支援の意思.質的データとして講義後に自由記述による感想を収集した.データ収集はいずれもGoogle Formsを用い,匿名とした.
 量的データはR2.8.1を用いて統計解析した.知識所持量等のLikert尺度はWilcoxon signed rank testにて,正誤問題等の名義尺度はFisher’s exact testにて前後比較した.質的データは質的内容分析によりカテゴリ化した.分析は3名で分担し相互確認した.量的・質的データを研究者らで統合し,教育効果を検証した.本研究は講義実施大学の倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】 量的データは25名分が収集された.年齢は20.8±0.8歳であった.身体的性別は女性56.0%,男性44.0%であった.回答者の92.0%は異性愛で,シスジェンダーが100.0%であった.
 統計解析の結果,知識の所持量,知識の必要度は講義後に有意に向上した.正誤問題は11問中5問において正答率が有意に向上した.アウェアネスは家族・友人,同療が対象の場合はLGBT全体で有意に向上したが,リハビリ対象者の場合はレズビアン・バイセクシュアル女性のみ向上した.リハビリ対象者がレズビアン・バイセクシュアル女性,トランスジェンダーの場合,対象者に持つ印象は有意にポジティブに変化した.LGBT支援の意思は講義後に有意に向上した.取り扱い難易度は有意差を認めなかった.
 質的データは27名分が収集された.分析の結果,4つの大カテゴリが生成された.SOGI教育は「①正しい知識習得の機会」となり「②医療職が学ぶ意義の理解」が得られていた.また「③知識を実生活へ般化する意欲」が醸成されていた.マジョリティ・マイノリティの視点から「④自己理解の深まり」を体験する学生と,LGBTを他人事と捉えるに留まる学生がいた.
【考察】 量的分析は知識等の向上を示し,先行事例(松本,2022)を支持した.質的分析はこれに加え,自己理解や実生活への般化等の応用的視点・意欲の醸成を示した.SOGI教育は,多様性を考慮した臨床の基礎作りに寄与すると考えられる.
 一方,知識ある他人事層(電通,2021)に留まる学生の存在や,取り扱い難易度を考慮すると,多様性に関するコンピテンシー(Butler et al., 2016)の習得も検討する必要がある.教育効果の長期的検証,対象の拡大は今後の課題である.