第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

運動器疾患

[OD-3] 一般演題:運動器疾患 3

2024年11月9日(土) 16:50 〜 18:00 C会場 (107・108)

座長:斎藤 和夫(東京家政大学 健康科学部リハビリテーション学科)

[OD-3-1] 本邦でのハンドセラピィにおけるUseful hand獲得に関する要素の文献研究

相良 慶介1, 會田 玉美2, 野村 健太2 (1.春山記念病院 リハビリテーション科, 2.目白大学大学院 リハビリテーション学研究科)

【背景】ハンドセラピィの目標はUseful handの獲得である.機能回復の他,手の使用頻度の向上や社会参加を促進させ,健康関連QOLの向上を図ることが重要である.しかし,Useful handの具体的な要素は示されていない.また,Useful handは対象者の生活背景により異なるため,多様性に富んでいると考えられる.
【目的】本研究の目的は,Useful handに関する論文を調査し,その要素を明らかにすることである.対象者の多様性に応じた活動・参加の促進に対する重要性を示し,作業療法士の専門性を活かした治療や研究への示唆が得られると考えられる.
【方法】医中誌webを用いて,「ハンドセラピィ/手外傷」,「QOL/満足」をキーワードに,2010年から2024年1月に発表された論文を検索した.なお,分析に際し,箸の使用や布団生活など,諸外国と生活様式が異なることから,本邦出版の論文に限定した.包含基準は,ハンドセラピィに関する論文,健康関連QOL評価が行われた論文,査読のある全国誌に掲載された原著論文とした.次に,PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic reviews and Meta-analyses)に準じて適格性の確認を行った.対象論文から,①筆頭筆者の職種,②対象疾患,③健康関連QOL評価指標,④ハンドセラピィプログラム,⑤結果の概要を抽出した.なお,④ハンドセラピィプログラムはICFに準じて分類した.また,ハンドセラピィはUseful handに根差した実践として捉え,Useful handの獲得に関する記述を⑤結果の概要より抜粋し,質的記述的研究に準じた手法で整理した.
【結果】採用された論文は17件であった.筆頭筆者の職種は全て作業療法士であった.対象疾患は,橈骨遠位端骨折が5件と最多で,四肢切断が4件,手指腱断裂が3件と続いた.健康関連QOL評価指標は,DASHやHand20などの患者立脚型評価尺度を用いた論文が多く,その他,手の使用状況や生活の満足度を聴取した論文,インタビューや自由回答のアンケートを用いた論文があった.ハンドセラピィプログラムをICFで分類した結果,心身機能・構造が全体の8割を占めており,活動・参加,環境因子が順に続いた.質的記述的研究に準じて整理した結果,Useful handの獲得は「上肢機能の回復」,「手の実用性の向上」,「仕事および趣味への参加」,「対象者主体とした精神心理面の回復」の4つの要素が抽出された.
【考察】ハンドセラピィは作業療法士の専門性が高い領域であると考えられた.また,本邦での健康関連QOL評価指標には,DASHやHand20等の患者立脚型評価尺度の活用が中心であると考えられた.一方で,独自の指標を用いた論文もあった.これは,既存の尺度では骨癒合や腱の修復段階に応じた疾患特有の手の使用の困難さを反映しにくいことから,独自の指標が用いられていた可能性が考えられた.Useful handの獲得には4つの要素が関連していたが,ハンドセラピィプログラムでは心身機能・構造に偏っていた.活動・参加に対するハンドセラピィプログラムを実施し,仕事や趣味など対象者の生活背景に応じて,手の実用性を高めていくことの重要性が示唆された.今後は,疾患特異的な健康関連QOL尺度の拡大や活動・参加に関する介入効果を明らかにすること,Useful hand獲得における手の実用性や精神心理面への影響を明らかにすることが必要であると考えられた.