第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

精神障害

[OH-1] 一般演題:精神障害 1

2024年11月9日(土) 12:10 〜 13:10 F会場 (201・202)

座長:大野 宏明(川崎医療福祉大学 リハビリテーション学部作業療法学科)

[OH-1-2] 双極性うつ病における運動療法の効果

富山 優子1, 濵田 文仁2, 堀 輝2, 後藤 玲央3, 川嵜 弘詔2 (1.福岡大学病院 精神神経科, 2.福岡大学医学部精神医学教室, 3.福岡大学医学部精神医学教室  ニューロサイエンス・精神医学研究講座)

【はじめに】
 双極性障害は躁状態とうつ状態を繰り返し,社会機能に影響を与えることが知られている.単極性うつ病治療における運動療法は多くの臨床研究やメタ解析が報告されており,英国NICEガイドラインでは,軽症から中等症うつ病で第一選択治療として挙げられている.一方で,双極性うつ病を含む双極性障害治療における運動療法研究はほとんどなされていない.
 演者らは,精神科作業療法において双極性うつ病患者を対象とした身体的プログラムの導入により,うつ状態及び睡眠覚醒リズムが改善することを数多く経験してきた.
 今回我々は,双極性うつ病患者に対する運動療法の有効性を検討する目的で,多施設共同無作為割付比較試験を行った.なお,本研究は福岡大学医の倫理委員会の承認を得ている.
【目的】
 双極性うつ病患者に対する運動療法の有効性について検討する.
【対象】
 双極性うつ病で共同研究機関に入院中の患者で,以下の基準を満たす者とする.
1)DSM-5で双極性障害の診断,2)現在うつ病エピソード,3)QIDS-Jで6~15点の軽度~中等度の双極性うつ病,4)研究に同意が得られた20歳以上から65歳未満の者
【方法】
 本研究は多施設共同無作為割付比較試験である.軽症~中等症の双極性うつ病患者を対象に運動療法群と対照群に割りつけ(施設間割付),1日40~60分,週3回の運動療法を6週間行った.なお対象群にはストレッチを実施した.介入の前後(0週,6週)で以下の項目について評価を実施した.
1)精神症状(QIDS-J),2)QOL評価(WHO QOL26),3)Personal Recovery尺度(QPR-J),4) アクチグラフによる睡眠,活動量
1)2)3)については10週,26週にも評価を行った.
【結果】
 対象となった患者14名のうち運動群が8名(男性5名,女性3名),対象群が6名(男性3名,女性3名)であり,平均年齢は運動群が41.75(±13.09)歳,対象群が44.0(±17.09)歳であった.研究参加同意後に撤回した者が各群1名ずついたため,介入が実施できたのは運動群が7名(男性5名,女性2名),対象群が5名(男性3名,女性2名)であった.
 介入前後において,運動群では覚醒回数,QOL-26,QPR-Jの有意な改善を認め,対象群では総離床時間の有意な改善を認めた.介入後10週の評価が終了した者は運動群が 6名,対象群が5名,26週の評価が終了した者は運動群が4名,対象群が5名であり,0週−10週,0週−26週,6週−10週,6週−26週でも同様に解析を行った.運動群では有意差が出た項目はなかったが,対象群では6週と10週の比較においてQIDS-JとQPR-Jが有意に悪化していた.介入前後で改善を認めた項目においては両群とも10週,26週では有意な改善を示さなかった.
【考察】
 運動群において介入前後で睡眠時の覚醒回数,QOL-26,QPR-Jの改善がみられた.一方で対象群では介入前後で活動量の増加が示されたものの,その他については有意な改善を示さなかった.このことから,短期的な運動療法の介入により睡眠やパーソナルリカバリー,QOL向上への効果がある可能性を示した.
 今後も研究を継続し,短期及び長期的な運動療法の効果について検証していきたい.