第58回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-6] 一般演題:地域 6 

2024年11月10日(日) 09:40 〜 10:40 E会場 (204)

座長:石川 隆志(なかみちケアセンター)

[ON-6-4] ACTひろしま(包括型地域生活支援プログラム)の立ち上げ・継続・成長

川北 妃呂恵, 塚本 公子, 津嘉山 太, 大歳 明子 (合同会社ACTひろしま)

【はじめに】
 日本の精神科医療は世界に類を見ない入院偏重の状態が続いている.2022年には障害者権利条約に照らし国連より改善勧告が出されたことも記憶に新しい.筆者は精神科病院勤務時に長期入院患者の退院支援に関わり,地域支援の乏しさを痛感していた.この度,広島県で初の包括型地域生活支援プログラム(Assertive Community Treatment 以下ACT)を立ち上げる機会を得たので経緯を報告する.ACTが社会資源の一つとして日本に普及するため,事業の継続と成長の観点からも考察を行う.
【ACTとは】 
 重い精神障害を持つ方も住み慣れた地域で生活を続けるために1960年代にアメリカで開発された.日本では2003年にACT-J(千葉県)で試行され,2019年には全国で20チームある.専門家チームがその方のもとを訪れて必要な支援をワンストップで行う.24時間・365日体制で調子の悪い時も寄り添う.支援の質を保つため,リカバリーの視点で支援を行うこと・スタッフ1人当たりの利用者数などの基準がある.
【立ち上げの経過】
2019年12月,創立メンバー4名が初会合.以降も月に2回継続.
2020年2月,Q -ACT(北九州)見学.支援の質・経営面からもお手本とする事業所.
2020年5月より,地域のニーズを探り・ACTひろしまを応援して下さる方とつながり・広島県の精神科医療を考える目的で,勉強会『広島でACTを考える会』を月に1回開催
2020-2021年,事業内容の選定,法人設立準備,経営シミュレーション,就業規則・給与体系整備,リクルート活動,事業所・社用車・診療システム準備,事業所認可申請準備など多忙を極めた.
2021年創立メンバーの看護師が先行のACT-J(千葉県)に1年限定で就業
2022年2月広島県安芸郡坂町に事業所開所
2022年5月1日ACTひろしまLibelta‘(リベルタ)開業
【事業内容】
 日本ではACTとして制度化されていないため,既存の枠組みを組み合わせる必要があり,ACTひろしまは訪問看護ステーション・相談支援事業所・自立生活支援事業所を開業した.日本のほとんどのACTチームが診療所併設であるがそれは叶わなかった.経営母体は合同会社を選択し資金は創立メンバー4名で分担した.開業後10ヶ月で単月黒字化したが,採算ベースとされる1人1日4件の訪問は達成できていない.開業時の職員は6名(NS常勤3名/非常勤1名・OT1名・PSW1名).初年度に常勤NS1名が休職し,認可要件の維持が課題となった.
 利用者数の推移は,開業時→2023年4月→2024年1月で,訪問看護ステーション4名→43名→54名,相談支援事業所0名→10名→8名,自立生活援助事業所0名→3名→2名.
【結果・考察】
 創立メンバーは起業経験もなかったが,今回の経緯を通して実感したのはソーシャルアクションの持つ力と,地域住民を含めた多くの方々との協業の重要性であった.特に『広島でACTを考える会』を通して,地域の家族会や社会資源・先行ACT事業所・坂町・職員の前所属先等とつながり熱く応援して頂いた.現在,ACTのニーズは多いが職員確保に難渋しているため,精神科訪問看護基本療養費の算定可能職種の拡大・訪問看護ステーションの認可要件にNS以外の人数も算入可とすること等を望む.私たちの活動は大海の一滴に過ぎないが,今後も地域支援を志す方々とつながり精神障害を持つ方の選択肢を拡げる活動を継続したい.