第58回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-1] ポスター:脳血管疾患等 1

Sat. Nov 9, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PA-1-15] 頚髄損傷用車椅子グローブを使用することで車椅子移乗・食事・整容・更衣が自立に至った重症ギラン・バレー症候群の1症例

黒田 玲菜, 玉代 浩章, 田中 貴史, 沖田 啓子, 岡本 隆嗣 (医療法人社団 朋和会 西広島リハビリテーション病院)

【はじめに】ギラン・バレー症候群(以下GBS)後の生活再建には,運動療法や装具の積極的活用が有用であるとされている.下肢装具については,長下肢装具等の歩行補助具を使用した例が散見されるが,上肢機能障害に対する装具療法の例は少ない.今回,GBS後に上肢遠位の神経障害を呈しADL能力が著しく低下した症例に対して,頚髄損傷用の車椅子グローブを導入した.グローブ装着により手関節の固定と把持能力の向上が得られた結果,車椅子移乗,食事,整容,更衣が自立に至り,自宅退院が可能となったため報告する.
【倫理】発表に際し本人と家族から同意を得,十分な倫理的配慮を行った.
【症例紹介】40代女性,眩暈と発熱により体動困難となり軸索型GBSの診断を受け,発症71病日目に当院回復期病棟へ入院となる.病前は母親と2人暮らしで,ADL自立していた.入院時FIMは移乗1,食事4,整容1,更衣1で端坐位保持は可能,MMTは両上肢近位3,前腕2,手関節・手指1,両下肢2で握力は左右とも0㎏であった.
【介入経過】症例の母親は介助能力が乏しく,自宅退院には移乗動作の獲得が必要であった.スライド移乗を練習していたが,プッシュアップが行えず全介助を要していた.食事は万能カフ使用し摂取していたが,装着には介助が必要でこぼしも多く見られた.食事中手関節背屈の抗重力位が保てず体幹前傾位となるため,入院20病日目より手関節固定装具を併用した.その結果体幹屈曲の代償なく口元へのリーチが可能となったが,食事中にカフが落ちるという問題が残存した.整容は道具の把持が困難で洗顔や口腔ケアが行えず,更衣は衣服をつかむことができず全介助を要していた.以上のことから,症例のADL自立には手関節の固定と把持力を代償できる上肢装具が必要と考えた.手関節固定装具や万能カフでは,➀GBSが左右対称性であるため自力で装着ができない,➁装具の併用が困難であるという理由から,症例の機能障害を補うことが困難であった. そこで,症例の手関節・手指関節の状態は頚髄損傷と類似していることから,頚髄損傷者が車椅子駆動を行う際に使用する車椅子グローブ(MSY車椅子グローブ専門店)を購入しADL動作の獲得を試みた.上記の問題点を補えるよう,グローブは自力での装着に特化し,カフと一体型の物を選択した.
【結果】車椅子グローブを使用することで移乗はスライドや車椅子操作が可能となり,入院2か月後に自立となった.食事は手関節背屈と食具の落下を防止でき,自力摂取が可能となった.整容はグローブ上にタオルを乗せることで洗顔が可能となり,カフに電動歯ブラシの自助具を差し込むことで口腔ケアが可能となった.更衣は車椅子グローブのベルクロ部分に衣服を掛けることで可能となった.入院3ヶ月時点でFIMは移乗6食事6,整容6,更衣6,MMTは両上肢近位4,前腕3,手関節・手指3,両下肢4,握力は左0kg ,右0.5kgであった.
【考察】GBSは多ニューロパチーであり,複数の神経症状による機能障害を補う必要がある.症例は肩関節と肘関節の機能は残存していたが,前腕回内外や手関節掌背屈,手指屈曲/伸展で抗重力活動が困難であった.今回車椅子グローブを使用した結果,これらの神経障害を包括的に補うことができたと考える.移乗ではアームレストを手関節で押すことが可能となったため,上腕三頭筋の筋力を最大限発揮することができ,反力で身体を動かすことが可能となった.食事・整容・更衣では手関節固定による橈尺側手根屈筋と回外筋の代償に加え,カフポケットの使用により代償的な道具の把持が行えるようになった.このことから,上肢遠位の神経障害を呈した重度GBSに対して頚髄損傷用の車椅子グローブを使用することは,ADLや社会参加の一助となる可能性が考えられた.