第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-8] ポスター:脳血管疾患等 8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-8-13] 回復期リハビリテーション病棟における脳卒中患者の睡眠時間と身体活動量の関係

渡邊 栞1, 宮川 英乃1, 滝澤 宏和1,2 (1.医療法人社団武蔵野会 新座病院  リハビリテーション科, 2.埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科)

【背景】
脳卒中後の問題の一つとして脳卒中後うつ病 (Post-Stroke Depression: PSD) が挙げられ,脳卒中患者の約30%に発症する(Hackett M 2005). PSDが引き起こす問題として,睡眠障害(Baylan 2020) と身体活動量の低下(Aizawa 2022) が報告されている. 脳卒中患者の睡眠障害としては, 健常者と比較し睡眠の質が悪い(Oliveira 2019) という報告がある. 身体活動低下の要因としては, 年齢や性別が報告されている(Thilarajah 2018). これらの先行研究より, 睡眠と身体活動には関連が強いことが予想され, PSDはそれらの原因となっている可能性がある. しかし, 脳卒中患者の睡眠時間と身体活動量を同時に定量的に測定した報告はなく, それらの関連性は十分に示されていない. そこで本研究は,腕時計型の活動量計を使用して睡眠と身体活動を測定し, その他の因子との関連性を検証した. 本研究の仮説は, 脳卒中患者の睡眠時間は身体活動量には相関があるとした.
【方法】
研究デザインは前向きコホート研究とした. データ収集期間は2022年10月14日から2023年11月26日とした. 対象は回復期リハビリテーション病棟に入院した脳卒中患者のうちMini Mental State Examination: MMSEの得点が24点以上のものとした. 除外基準は失語症を有するものとした. メインアウトカムは睡眠時間と身体活動量(歩数),サブアウトカムとして, 抑うつ症状はPHQ-9: Patient Health Questionnair-9, 不安症状はGAD-7: Generalized Anxiety Disorder,疾患重症度はmodified Rankin Scale: mRS, ADLはFunctional Independence Measure: FIMを使用した. また, その他の基本情報として, 年齢, 性別,疾患名を電子カルテより取得した. データの測定方法は睡眠, 身体活動量はFitbit charge 5を使用し,取得した一週間のデータのうち, 平均値から標準偏差の2倍を超えた値は外れ値として除外した. 統計解析は睡眠時間, 身体活動量, 心理尺度, 疾患重症度, FIMのそれぞれ値をPeasonの相関係数を用いた. 有意水準は5%未満とした. 倫理的配慮として, 研究実施病院倫理委員会の承認を得て実施し, 書面を用いて同意を得た.
【結果】
対象被験者は14名 (女性6名, 平均58±10歳) だった. 一週間の睡眠時間の平均時間は393±69分, 身体活動量は6297±2879歩であった. 心理検査の平均得点はPHQ-9 3.7±3.8点, GAD-7 2.0±3.5点, 疾患重症度のmRSの得点は2.4±0.8点であった. 一週間の睡眠時間と身体活動量の平均値に相関はなかった(r=-.163, p=.561). また, 睡眠時間と心理尺度, 疾患重症度, ADLに相関は得られなかったが, 身体活動量と抑うつ症状(r=-.549, p=.028), 不安症状(r=-.500, p=.049) には相関が認められた. 身体活動量と疾患重症度, ADLに相関はなかった.
【考察】
本研究に参加した脳卒中患者の一日の睡眠時間は6.5時間であった. これは同年代の平均的な睡眠時間7.3時間 (総務省 2021) や, 先行研究の脳卒中患者の睡眠時間8.9時間 (Victor 2017) と比較しても短い結果となった. 本研究の一日の身体活動量は約6300歩であり, 平均的な同世代の歩数の6290歩 (厚生労働省 2019) の活動量と同等であった. 睡眠時間と身体活動量には相関が得られなかった理由として, 睡眠時間に影響を及ぼす要因として他の患者や医療機器の騒音, 痛み, トイレ誘導などの報告 (Hilde M Wesselius 2018) があり, 今回取得できていない要因が関連していたことが予想される. 身体活動量は抑うつ, 不安症状との関連が認められた. これは先行研究と同様の報告であり, 身体活動量は睡眠に比べると心理状態が強く反映される可能性が示唆された.