日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS22_1AM1] 大気化学

2014年5月1日(木) 09:00 〜 10:45 511 (5F)

コンビーナ:*竹川 暢之(東京大学先端科学技術研究センター)、澤 庸介(気象研究所地球化学研究部)、金谷 有剛(独立行政法人海洋研究開発機構地球環境変動領域)、高橋 けんし(京都大学生存圏研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、座長:宮川 拓真(海洋研究開発機構)

10:00 〜 10:15

[AAS22-12] 能登半島で観測されたススと硫酸塩の混合粒子の光吸収特性および形態的特徴

*上田 紗也子1中山 智喜1松見 豊1竹谷 文一2足立 光司3松木 篤4岩本 洋子4定永 靖宗5 (1.名古屋大学太陽地球環境研究所、2.海洋研究開発機構、3.気象研究所、4.金沢大学、5.大阪府立大学)

キーワード:エアロゾル光学特性, 大気観測, 黒色炭素, 電子顕微鏡, レンズ効果

大気エアロゾル粒子に含まれるススは、黒色炭素(BC)を母体とした大気中の主要な光吸収性物質であり、その大気加熱効果は地球の放射収支に正の影響を強く及ぼすとされている。スス粒子の光吸収特性は、硫酸塩や有機物などの被覆物があると、レンズ効果により増すと言われている。一方、実際のススを含む粒子の形状・組成は複雑であり、従来のコア・シェル構造の粒子や単純な組成の仮定では、レンズ効果を過剰に評価し得ることが指摘されている(Adachi et al., 2010; Lack and Cappa, 2010; Cappa et al., 2012)。本研究では、東アジアからのアウトフローを対象とし、よりagingされたスス粒子を観測するため、能登半島で春季に観測を行った。エアロゾル粒子の光散乱・吸収係数のオンライン測定と電子顕微鏡試料の解析から、ススの被覆による光吸収係数への寄与と個別粒子の形状・組成・混合状態を調べた。観測は、2013年4月17日から5月14日に金沢大学・能登スーパーサイトで実施した。エアロゾル光散乱・吸収係数は、エアロゾルが浮遊した状態で吸収係数を直接計測できる三波長光音響分光装置(DMT, PASS-3; λ=405, 532, 781 nm) を用いて測定した。試料大気をPM1 サイクロンと拡散ドライヤーに通した後、サーモデニューダーに導入し、室温、300℃、400 ℃の3経路を10 分毎切り替え測定した。また同経路でSP2 (DMT)によりBC質量濃度と被覆厚を測定した。電子顕微鏡観察用の試料は、大気を拡散ドライヤーに通した後、2段インパクター(50 %カットオフ径1.5、0.3 μm)で、カーボン補強したコロジオン膜上に採取した。下段の試料について、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、個別粒子形態を観察し、TEMに付属したエネルギー分散形X線分光(EDS)分析により、個別粒子の元素組成を調べた。さらに、EDS分析の際の高密度電子線の照射で揮発した後の粒子の観察から、不揮発かつ鎖状形状を有する物質をススとして判別し、その他の物質との混合状態を調べた。粒子を高温加熱すると、ススを被覆する硫酸塩などが揮発するため、レンズ効果が取り除かれると考えられる。781 nmでは有機炭素(OC)による光吸収の寄与がないと仮定し、室温と300℃の光吸収係数の比からBCのレンズ効果による光吸収の増加率を見積もったところ、期間平均で23±25%であった。期間中では、後方流跡解析より上海を経由して輸送された気塊とみられる際に、BCの光吸収の増加率が最も大きい値(40%以上)であった。この際に採取したTEM試料では、ススの多くは球に近い形状の硫酸塩に十分被覆された内部混合粒子として観察された。一方、観測期間を通して300℃に対する室温の405 nm光吸収係数の増加率は、781 nmと比べて低く、特に日本や朝鮮半島を経由した気塊で増加率が負になる傾向があった。405 nmでの光吸収の増加率を負に過小評価した要因として、サーモデニューダーでの加熱の際に光吸収性が増すOCが存在した可能性が挙げられる。405 nmの光吸収の増加率が負で781 nmの増加率が25%以下の際のTEM試料を分析した。上海由来の気塊と同様に、殆どのススが硫酸塩を十分多く付着した内部混合粒子であったが、硫酸塩粒子が凝集した形跡のある非球形の粒子が多く、高密度電子線照射後にスス以外の炭素質の残渣が観察された点も異なった。以上より、本観測手法で見積もられたレンズ効果が、ススを被覆する物質の形状と組成に応じて異なることが示された。Adachi, K. et al., J. Geophys. Res., 115, D15206 (2010)Lack, D. A. and Cappa, C. D., Atmos. Chem. Phys., 10, 4207-4220 (2010)Cappa, C. D. et al., Science, 337, 1078-1081 (2012)