日本地球惑星科学連合2014年大会

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ポスター発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC31_29PO1] 雪氷学

2014年4月29日(火) 14:00 〜 15:15 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*鈴木 啓助(信州大学理学部物質循環学科)、兒玉 裕二(国立極地研究所)

14:00 〜 15:15

[ACC31-P06] 中国・天山山脈ウルムチ№1氷河表面の化学成分分析

若林 梢1、*竹内 望1田中 聡太1雨宮 俊1 (1.千葉大学理学研究科)

キーワード:化学成分, 氷河

氷河や積雪などの雪氷中には,様々な溶存化学成分が含まれている.とくに融解期の雪氷面の化学成分は,氷河や積雪表面で繁殖する雪氷微生物の生態の理解に重要である.微生物の中でも光合成により氷河表面で有機物を生産する雪氷藻類は,氷河表面のアルベドを変えて融解を促進する効果があるため,その生態は氷河の融解過程の理解に重要である.雪氷藻類の繁殖には,雪氷表面の化学成分の中でも,特に栄養塩として利用している窒素やリンの成分が深く関与していると考えられる.中央アジアの山岳には多くの氷河が分布しており,その氷河表面に繁殖する雪氷藻類は,バイオマスが大きくシアノバクテリアが比較的多く占めている.これらは緑藻が占める割合の大きい北極域の氷河とは異なる特徴である.雪氷藻類のこのような群集構造を決定する要因に,栄養塩などに関わる化学成分が関与しているかもしれない.そこで本研究では,中央アジアの乾燥域に位置する中国天山山脈・ウルムチ№1氷河の融解期表面の2010年から2012年までの3年間の主要化学成分の濃度分析を行い,標高による化学成分の違いや経年変動を明らかにし,その変動の原因と雪氷藻類への影響について理解することを目的とした.
本研究では,2010~2013年8月に中央アジア天山山脈・ウルムチ№1氷河表面において採取したサンプルを使用した.標高の異なる6地点(標高が低い順にS1~S6)で表面の氷を採取し、これらを融解させた後,濾過を行い千葉大学の実験室に持ち帰った.これを冷凍保存したものを解凍させ,イオンクロマトグラフ(DIONEX,ICS-1100)を用いて主要化学成分濃度の分析を行った.また、フィルター上にろ過したものを,DMFにクロロフィルを抽出し,蛍光光度計を使ってクロロフィル量を算出した.
ウルムチ№1氷河表面に溶存する主要化学成分は,標高によらずCaが6割以上を占めていることがわかった.これは融解表面の化学成分も氷河周囲から飛来するダストの影響を大きく受けていることを示している.Ca以外の化学成分も,標高によって濃度の違いがあることが明らかとなった.藻類の栄養塩として重要なNH??の濃度は,末端から中流部までは標高が高いほど増加し,S4でピークとなっていた.クロロフィル濃度の測定結果も,S4で最大値をとったことから,これらの全窒素濃度が藻類の高度分布に影響している可能性がある.