日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG33_28PM2] 中部山岳地域の自然環境変動

2014年4月28日(月) 16:15 〜 18:00 418 (4F)

コンビーナ:*鈴木 啓助(信州大学理学部物質循環学科)、松岡 憲知(筑波大学生命環境系)、大塚 俊之(岐阜大学流域圏科学研究センター)、座長:鈴木 啓助(信州大学理学部物質循環学科)

16:45 〜 17:00

[ACG33-06] 山地森林流域における降雨流出特性の長期変動の評価

*児島 利治1ザイナル エドウィナ2大橋 慶介3篠田 成郎4 (1.岐阜大学流域圏科学研究センター、2.岐阜大学大学院工学研究科、3.岐阜大学工学部、4.総合情報メディアセンター)

キーワード:水源涵養機能, 気候変動, 深部浸透, タンクモデル

森林の水源涵養機能は緑のダムとも呼ばれ,森林の重要な機能の一つと認識されている.しかし「スポンジ理論」のようにしばしば一般には間違って理解されていることもある.森林域の水収支は多数の水文過程の複雑な構成であり未だ不明な点がある.本研究では,岐阜県中津川市のガマン沢集水域(3km2)において,森林の生長及び気候変動による降雨流出現象の長期変動について検討を行った.対象集水域では岐阜県及び林野庁により1984年から2007年まで長期の水文観測が実施されている.対象集水域の主な樹種はヒノキ(67%), スギ(4%), 広葉樹(20%) 等である.Landsat/MSS,TM,Terra/ASTERを用いた衛星画像解析を行ったところ,集水域の平均NDVIは増加傾向にあり,解析対象期間内において森林は生長し続けていると考えられる.長期水文観測データを降雨イベント毎に分割し,イベント流出率f(=降雨イベント内の総直接流出量/総降雨量)の長期傾向について検討を行ったところ,df/dt = -0.006 [y-1]という傾きで減少傾向にあることが分かった.また,長期水文観測データを4期間に分割し,各期間に4段タンクモデルを適用し,モデルパラメタの変動傾向より,降雨流出現象の変動傾向の検討を行った.ここで,我々は森林の生長に伴い土壌層厚や側方浸透能は変化するが,岩盤の亀裂に関連する鉛直浸透能はあまり変化しないと仮定し,第2段タンク以下のモデルパラメタ及び第1段タンク下部孔のモデルパラメタは固定し,第1段タンク側方孔のモデルパラメタの変動のみ検討を行ったところ,0.9から0.7 [d-1]と約20年の解析期間で減少傾向が見られた.次にこのモデルパラメタを用いてテスト降雨イベントのシミュレーションを行ったところ,以下の結果が得られた.1) ピーク流量が減少した.2) イベント流出率fが0.6から0.5という減少傾向にあり,長期水文データを用いたイベント流出率の長期変動解析結果(df/dt = -0.006)とほぼ同等の傾向を示した.これらの結果は,森林の生長に合わせて洪水抑制機能が増加していることを示唆していると考えられる.一方,下部浸透孔のモデルパラメタは固定されているものの,下部タンクへの総浸透量は増加し,基底流も増加した.この結果は基岩層の亀裂等の鉛直浸透能は増加しなくとも帯水層への貯留機能は増加することを示唆している.この減少は以下のように説明できる.側方孔,下部孔が一つずつの簡易なタンクを考える.側方孔からの流出q [mm/d] はq = ahと定義される.ここでh [mm]はタンクの貯留高, a [d-1]は側方孔のモデルパラメタ. 下部孔からの浸透速度i [mm/d]はi = bhと定義できる.ここでb [d-1] は下部孔のモデルパラメタである.ここで,総浸透量I [mm] はI = bC/(a+b)と定義できる.ここでCは積分定数. 上式において,パラメタbを固定し,a のみ減少させると,総浸透量I は増加することが分かる.以上より,鉛直浸透に関する特性が変化しなくとも,森林の生長に伴い水源涵養機能が増加することが示唆された.また,本研究では蒸発散について,蒸発散量を固定した場合とハモン式による可能蒸発散量を与えた場合の2ケースについて検討を行った.ハモン式は日平均気温と日照時間より可能蒸発散量を算出する経験式である.この2ケースにおいて側方孔の長期変動傾向はほとんど同じであり,気候変動による気温上昇はあまり森林流域における降雨流出特性に対して大きな影響を与えていないと考えられる.