17:15 〜 17:30
[ACG33-08] 中部山岳木曽駒ヶ岳樹木限界付近での温暖化実験が土壌性ササラダニ類に与える影響
キーワード:ササラダニ, 垂直分布, 温暖化, 生物指標, Cyrtozetes属
目 的地球温暖化が進行した場合、高山の樹木限界付近において特に大きな影響が出ることが考えられる。そこで、中央アルプスの木曽駒ヶ岳の樹木限界付近、標高2650m付近において、オープントップチャンバーによる、温暖化実験を行っている。中型土壌動物のササラダニ類は、どのような土壌環境にも生息し、その種類数、個体数が多いこと、環境により分布域が異なることなどから、環境指標生物として注目されている。今回は、温暖化実験を実施したオープントップチャンバー内の土壌中と対照区でのササラダニ類相を比較し、温暖化実験の影響を評価することとした。一方、この地域のササラダニ類の垂直分布を調査し、温暖化実験の影響と比較した。また、実際に温暖化がササラダニ類の死亡率にどのような影響を与えるかの室内実験も行った。方 法垂直分布は、信州大学農学部附属西駒演習林の登山道に沿って、1250m、1700m、1900m、2100mの地点で、広葉樹林と針葉樹林に調査プロットを設置した。2012年7月26日に各調査プロットから、100ccのコアサンプラーで、5サンプルずつ採取し、その日のうちにツルグレン装置にて抽出を行った。また、2012年8月28日に1250m、1400m、1700m、1800m、 1900m、2000m、2100m、2200m、2600mのそれぞれ2箇所から約400ccずつサンプリングを行った。温暖化の試験地は、信州大学農学部附属西駒演習林の2650m付近の樹木限界付近に設置した。2013年9月20日に夏期温暖化区、対照区の9箇所ずつから100ccのコアサンプラーにて2個採集したものをあわせて1サンプルとした。サンプルはその日のうちにツルグレン装置にて抽出を行った。2013年7月17日に、西駒演習林2100m地点と1250m地点から土壌を採取し、攪拌後に400ccずつ不織布に包んで、バーミュキュライトを入れた11cm径の植木鉢に設置し、10℃、20℃、30℃で1ヶ月間の飼育を行った。5回繰り返しとした。1カ月後の土壌をツルグレン装置に設置し動物の抽出を行った。結果と考察垂直分布では、Cyrtozetes属の一種とクワガタダニ(Tectocepheus velatus)、ヤマトイレコダニ(Phthiracarus japonicus)などが、標高が高くなるほど増加し、特にCyrtozetesは1900m以上でしか出現しなかった。一方、標高に関係なく、広葉樹に特異的に出現する種もあり、ツノバネダニの一種やナガヒワダニの一種のように低標高のみに出現するものもあった。温暖化実験では、高標高にしか出現しないCyrtozetseは、加温区で減少し、Ghilarobizetesがやや増加し、Cyrtozetes属が温暖化に敏感に反応する可能性が示唆された。これらのことから、ヤマトイレコダニPhthiracarus japonicus やCyrtozetes sp., 特にCyrtozetes は、高山帯における温暖化の指標生物として有能であることを示している。しかし、室内での飼育実験結果を見ると、2100mから採取したササラダニ類は、ほとんどが温度条件が異なっても生存率はほとんど変わらないことが分かった。温暖化に敏感に反応することが予想されたCyrtozetesは、30℃でわずかに減少することが分かったが、それほど大きな違いではなかった。また、同じく高標高に特異的なヤマトイレコダニ(Phthiracarus japonicus)は、逆に20℃で増加していることが分かった。このことから、短期間の温度の変化による影響と温暖化実験の結果は異なる可能性があること、温暖化実験の影響は必ずしも温度の上昇だけが要因ではない可能性が出てきた。これは、ササラダニの世代が1年以上と長いものが多いことも影響している可能性があり、世代交代の時期も含めた実験が必要であることが分かった。