日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG34_1PM1] 統合的な陸域生態系-水文-大気プロセス研究

2014年5月1日(木) 14:15 〜 16:00 213 (2F)

コンビーナ:*佐藤 永(名古屋大学大学院 環境学研究科)、伊勢 武史(兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科)、熊谷 朝臣(名古屋大学地球水循環研究センター)、座長:佐藤 永(名古屋大学大学院 環境学研究科)

14:15 〜 14:45

[ACG34-01] 陸域生態系-水文-大気プロセス研究における水の安定同位体比情報利用の最前線

*芳村 圭1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:水安定同位体比, データ同化, 水循環, 気候プロキシ, 気候再解析, 分光分析

陸域生態系-水文-大気プロセスにおける水循環の全体像についての理解は十分進んでいると思われがちである。しかしながら、例えば降水中の海洋起源の水の割合(Gimeno et al., 2012)や、陸面からの潜熱フラックス、すなわち蒸発散量のうち、植生を経由する蒸散量と土壌からの蒸発量の割合(Jasechko et al., 2013)、対流雲生成活動における激しい相変化を伴う雲中の水循環や雲底下の蒸発効率(Moyer et al., 2012)、ハドレー循環の下降流地帯(乾燥地帯)における水蒸気の挙動(Frankenberg et al., 2009)などは、地球水循環を理解するうえの基本的な事項であるにもかかわらず未だ十分理解されているとは言えず、活発な議論が行われている最中である。いずれも将来気候の予測に大きな影響を与えるものであり、理解の向上は喫緊の課題である。水の安定同位体比(δ18OとδD)は水の相変化に対して敏感であり、特に上記のような相変化を伴う水循環過程の理解向上への利用に適した指標である。これまでは質量分析計で測定していたため、液体の水を採集する必要があり、結果的に降水や地表水といった地表面のデータが大部分であったが、近年の技術進歩により、人工衛星搭載型の赤外線スペクトル分光計や可搬型のレーザー分光計を用いて水蒸気の同位体比が圧倒的高頻度で測れるようになり、データ数が爆発的に増加している。また、水同位体を含む大循環モデル・領域モデル・雲解像モデルなどの開発が飛躍的に進み、これまで仮説の限定的な側面からの状況証拠程度にしか使われてこなかった同位体情報(例えば高緯度への水蒸気輸送への証拠として同位体比に緯度傾度が生じていることなど)が、より詳細な物理過程の包括的な検証に使われるようになってきている(雲微物理過程におけるパラメタの同定に同位体情報を用いること(Risi et al., 2012)など)。しかしながら、そのように爆発的に増加した水蒸気データを多角度からまだ十分に使い切っていないという現状も依然として存在している。こういった背景から、著者は全球水同位体比データ同化システムを世界に先駆けて開発し(芳村ら、2013;Yoshimura et al., 2014)、水蒸気同位体比データを同化することにより、水同位体比の時空間分布だけでなく気温・風速・湿度といった大気循環場そのものを拘束できることを示した。このことは、地球水循環研究において、水同位体比が持つ大気中での降水履歴と輸送経路などのユニークな情報を、他の気象要素との整合性を考慮しながら加えることによって、より正確な地球水循環の姿を描き出すことが可能であることを示している。また、降水の同位体比及びアイスコアや樹木セルロース、サンゴ殻、石筍等などの同位体比をデータ同化システムへの入力情報として用いることによって、プロキシデータの拘束による、直接観測が存在しない過去の「気候再解析」実現への可能性を秘めている。