日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG36_29PM1] 北極域の科学

2014年4月29日(火) 14:15 〜 16:00 311 (3F)

コンビーナ:*齊藤 誠一(北海道大学大学院水産科学研究院)、猪上 淳(国立極地研究所)、原田 尚美((独)海洋研究開発機構)、鈴木 力英(海洋研究開発機構 地球環境変動領域)、座長:齊藤 誠一(北海道大学大学院水産科学研究院)

15:30 〜 15:45

[ACG36-06] セジメントトラップに捕集された西部北極海ノースウィンド海底平原における動物プランクトン群集と糞粒の季節変動

*松野 孝平1山口 篤2藤原 周1小野寺 丈尚太郎3渡邉 英嗣3原田 尚美3菊地 隆3 (1.国立極地研究所、2.北海道大学水産科学研究院、3.海洋研究開発機構)

キーワード:西部北極海, セジメントトラップ, 動物プランクトン群集, 糞粒

季節海氷域である西部北極海は10月-7月にかけて海氷に覆われるため、年間を通した観測が難しく、動物プランクトンの季節変動については不明な点が多い。セジメントトラップは周年を通した沈降粒子試料捕集が可能であり、半定量的ながら、動物プランククトンの季節変動解析に適した測器である。本研究は、西部北極海ノースウィンド海底平原の水深184-260 mに、2010-2012年の2年にわたり設置されたセジメントトラップに捕集された多細胞動物プランクトンに関わる2項目 (動物プランクトンスウィマーと糞粒) について解析を行い、動物プランクトン群集構造の季節変動を明らかにしたものである。 2010年10月4日-2011年9月28日および2011年10月4日-2012年9月18日に、ノースウィンド海底平原 (St. NAPt,水深1975 m) の184-260 mに、開口面積0.5 m2のセジメントトラップを設置し、10-15日間隔で沈降粒子試料を捕集した。全試料数は52である。試料カップにはあらかじめ5%ホルマリン海水を入れた。試料は回収後、1 mmメッシュで分画し、1 mm以下のサイズフラクションを沈降粒子輸送量 (mg DM m-2 day-1) として測定した。< 1 mm試料中に含まれていた動物プランクトンの糞粒は形態から4タイプ (楕円型、円柱型、球型、茶色楕円型) に区別して計数した。実体顕微鏡下にて動物プランクトンは分類群、カイアシ類は種および発育段階毎に同定・計数を行った。得られた動物プランクトン個体数データ (ind. m-2 day-1) は、対数変換した後にBray-Curtisと平均連結法によるクラスター解析を行った。また、SIMPER解析により、群集間に差異を与えていた種を同定した。衛星データから、St. NAPtにおける結氷期間は11月?6月で、開放水面期間は8月-10月であったことが分かった。また、海表面クロロフィルaは開放水面期間 (8月-10月) にのみ検出された。沈降粒子輸送量は0.1-263.3 mg DM m-2 day-1の範囲にあり、いずれの年も結氷後の11月にピークを示していた。糞粒はその形態から4タイプ (楕円型、円柱型、球型、茶色楕円型) に分けられ、全糞粒数に占める割合は年平均で楕円型が60%、球型が30%であった。一方、茶色楕円型の出現には明確な季節性が見られ、開放水面期の7?8月に多く、数的に最大80%にも達していた。動物プランクトン個体数は35-739 ind. m-2 day-1の範囲にあり、いずれの年も結氷後の9月-11月に有意に多かった (p < 0.0001, one-way ANOVA)。個体数にはポエキロストム目カイアシ類が最優占分類群 (年平均±標準偏差: 69±18%) で、季節的に二枚貝幼生が10月-11月に優占し (最大53%)、フジツボ幼生は2011年8月に出現したが (最大33%) 、2012年には出現しなかった。クラスター解析の結果、2年間にわたる全52試料は5つのグループに分けられた。各グループの出現には明確な季節性があり、結氷期間中にも群集構造の変化が見られ、これは日照時間の変化に起因するものと考えられた。糞粒において明確な季節性を持っていた茶色楕円型の糞粒は、別途行った船上飼育実験より端脚類の糞粒であると考えられ、開放水面時に端脚類の摂餌活性が高かったことの反映と考えられた。動物プランクトン群集に季節性をもたらしていた二枚貝幼生とフジツボ幼生は、いずれも底生生物により放出された浮遊幼生であり、チャクチ海など浅い海域から移流されてきたものと考えられた。また、フジツボ幼生の出現に年変動 (2011年には出現したが、2012年には出現せず) があったのは、St. NAPt表層の水塊構造に年変動があったことの反映と考えられた。