日本地球惑星科学連合2014年大会

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ポスター発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG36_30PO1] 北極域の科学

2014年4月30日(水) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*齊藤 誠一(北海道大学大学院水産科学研究院)、猪上 淳(国立極地研究所)、原田 尚美((独)海洋研究開発機構)、鈴木 力英(海洋研究開発機構 地球環境変動領域)

18:15 〜 19:30

[ACG36-P10] 北極圏氷河のクリオコナイト粒の地域特性と形成過程

*藤澤 雄太1竹内 望1永塚 尚子2植竹 淳2宮入 匡矢1 (1.千葉大学大学院理学研究科、2.国立極地研究所)

氷河上にはクリオコナイトと呼ばれる暗色の不純物が堆積している.クリオコナイトは主に雪氷微生物由来の有機物や鉱物粒子で構成されている.これらの構成物は,氷河上に生息する糸状のシアノバクテリアの働きによってクリオコナイト粒と呼ばれる粒状の複合体を形成していることが多い.クリオコナイト粒は通常1mmほどの球形で,バクテリアの腐食作用により黒色に近い色をしている.近年,グリーンランド氷床裸氷域南西部の表面には,クリオコナイト粒の堆積による暗色域が出現していることが明らかになっている.衛星画像の解析から,暗色域の拡大に伴い氷河表面のアルベドの低下が大きくなっていることが確認されている.このようなクリオコナイト粒による表面の暗色化は,氷河の融解に大きな影響を及ぼす可能性がある.したがって,クリオコナイト粒の形成過程についての理解は,氷河生態系の理解や氷河の質量収支への影響を考える上で重要である.しかし,質量減少著しいグリーンランド氷床をはじめとする北極圏の氷河では,クリオコナイト粒の形成過程は明らかになっていない.本研究では,北極圏に位置する氷河のクリオコナイト粒の表面状態や形態,内部構造を分析し,氷河による形成過程の違いを明らかにすることを目的とした.
本研究では,グリーンランドの氷床北西部,スバルバードのロングヤービン氷河,シベリアのスンタルハヤタ氷河,アラスカのグルカナ氷河の各消耗域で採取されたクリオコナイト粒サンプルの分析を行った.実体視顕微鏡,透過型光学顕微鏡を用いてクリオコナイト粒の表面を観察し,その形態的特徴や構成物の特徴,粒径の測定を行った.さらに,クリオコナイト粒の内部構造を明らかにするためにサンプルを樹脂で包埋し,研摩によって薄片を作成し,断面構造の顕微鏡観察を行った.
クリオコナイト粒の顕微鏡観察の結果,同じ北極圏に位置するグリーンランド,スバルバード,シベリア,アラスカの氷河間で,クリオコナイト粒の形態に違いがあることがわかった.クリオコナイト粒の平均粒径は,スバルバードが最も大きく,シベリア,アラスカ,グリーンランドの順であった.スバルバードのクリオコナイト粒の平均粒径は0.63mm,色は褐色.シベリアのクリオコナイト粒の平均粒径は0.50mm,色は黒色.アラスカのクリオコナイト粒の平均粒径は0.49mm,色は灰色から褐色.グリーンランドのクリオコナイト粒の平均粒径は0.43mm,色は褐色から黒色であった.各氷河のクリオコナイト粒サンプルの薄片を作成し,内部構造を観察した結果,クリオコナイト粒の内部には複数の構造が存在することがわかった.グリーンランドでは,粒同士が融合してひとつの粒を形成する構造が観察され,スバルバードでは,主に褐色の層とそれよりも濃い色の層の同心円状の層構造が観察された.シベリアでは,比較的大きな鉱物粒子を取り込む構造が観察され,アラスカでは,粒がひとつの層からなる単層の構造が多く観察された.これらの構造の違いは,各地域でのクリオコナイト粒の形成段階,また氷河上の形成環境の条件を反映していると考えられる.