日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW25_2AM2] 同位体水文学2014

2014年5月2日(金) 11:00 〜 12:45 414 (4F)

コンビーナ:*安原 正也(独立行政法人 産業技術総合研究所)、風早 康平(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、高橋 正明(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、鈴木 裕一(立正大学地球環境科学部)、風間 ふたば(山梨大学大学院医学工学総合研究部工学学域社会工学システム系)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、座長:浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、網田 和宏(秋田大学大学院工学資源学研究科地球資源学専攻)

11:15 〜 11:30

[AHW25-09] 羊蹄山麓湧水への火山ガスの寄与に関する検討

*草野 由貴子1安原 正也2浅井 和由3稲村 明彦2高橋 浩2森川 徳敏2 (1.東京大学、2.産業技術総合研究所、3.株式会社地球科学研究所)

羊蹄山は西南北海道に位置する標高約1893mの成層火山であり、山麓部には多くの湧水が存在している。これらの多くの湧水は標高200~260mに分布し、羊蹄山の火山噴出物とその基盤を成す留寿都層との境界部から湧出している(山口・佐藤,1971)。北~東~南麓側は羊蹄火山から噴出された火山降下物及びその再堆積物に広く覆われている一方、西麓側には複数の寄生火山が存在し、その活動に伴って噴出した溶岩流が分布している(勝井,1956)。羊蹄山麓湧水に関しては、既往研究によりその水質組成や流量の特性について議論がなされてきている。それらの研究によると、東~南麓には湧出量の多い湧水が分布し、それらの溶存成分が低い一方で、西麓には湧出量の少なく、溶存成分の多い湧水が分布し、湧水の流量、水質組成の分布に特徴がみられることが明らかにされている(山口・佐藤,1971;山口,1972;鶴巻,1989)。また、西麓側の湧水ではHCO3濃度および遊離CO2濃度の高い湧水がみられ、水温も高い傾向にあることから、西麓側の湧水への火山ガスの影響が指摘されている(山口・佐藤,1971;鶴巻,1989)。しかし、山麓湧水への火山ガスの寄与の有無や実態は明らかにされていない。本研究では2013年8月の現地調査にて山麓湧水を採水し、それらの主要溶存成分、酸素・水素安定同位体比(δ18O・δD)、炭素安定同位体比(δ13C)、ヘリウム濃度、ヘリウム安定同位体比(3He/4He)の分析を行った。今回の発表では、羊蹄山麓に湧出する湧水への火山ガスの寄与について、過去の研究との結果の比較に加え、同位体組成をもとに検討を行った結果について報告する。本研究で採取した湧水の溶存成分濃度は、山口・佐藤(1971)や鶴巻(1989)によって得られた結果とほぼ同様であり、多くの湧水はCa-HCO3型、もしくはNa-HCO3型を示した。また、東~南麓の湧水の主要溶存成分濃度は低く、西麓側では高い傾向にあり、西麓側ではHCO3濃度および遊離CO2濃度が高い傾向も一致していた。無機溶存炭素のδ13Cは東~南麓で約-21.7~-17.7‰であったのに対し、西麓側の湧水では約―18.1~-3.0‰を示し、湧水の全炭素濃度が高いほど、無機溶存炭素のδ13Cが高くなる傾向が見られた。この結果は、起源の異なる無機溶存炭素が混入していることを示唆している。湧水は羊蹄山の火山噴出物中を流動してきた地下水であると考えられるため、地下水中への海成炭酸塩の寄与は考えにくい。δ13Cと全炭酸濃度の逆数の関係をみると、湧水の値は土壌起源CO2と火山ガス起源CO2との混合を示す範囲内の値を示し、δ13Cおよび全炭酸濃度が高い湧水ほど火山ガス起源CO2の寄与が高くなる傾向が見られた。これらの結果から、湧水は火山ガス起源のCO2の混入により高い全炭素濃度およびδ13Cを示したことが示唆された。一方で、湧水の水素・酸素安定同位体比は全て天水線に沿った値をとるため(産総研未公表データ)、水そのものは天水起源であり、マグマ水は殆ど混入していないと考えられる。西側の湧水への火山ガスの混入がより強く示唆された要因については現時点では明らかではないが、西麓側には寄生火山が分布しており、山口・佐藤(1971)では寄生火山の影響を指摘している。今後は、ヘリウム安定同位体比、および地下水年代指標等を用いて、地下水流動系の相異と火山ガスの寄与の関係についても検討していく予定である。引用文献勝井義雄,1956.5万分の1地質図幅説明書,留寿都,付録.北海道開発庁,p14.鶴巻道二,1989.地下水学会誌,31,3,165-173.山口久之助・佐藤巖,1971.羊蹄山麓湧泉調査報告,北海道立地下資源調査所,27p.山下久之助,1972.地学雑誌,81,4-20.