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[AHW25-11] 三瓶山とその周辺の地下水の同位体的特徴
キーワード:活火山, 地下水, 水質, 同位体, 火山性流体
島根県東部に位置する三瓶山は主にデイサイトから構成される活火山であり,4×6km程度の大きさのカルデラを有する.カルデラ内には標高1126mの男三瓶や孫三瓶山をはじめとする中央火口丘(溶岩円頂丘)と,それらを取り巻く崖錐や火砕流堆積物が広がる.カルデラ外部には,早水川,角井川,伊比谷川,伊佐川,三瓶川,大江川等のカルデラからの流出河川によって開析された花崗岩類からなる低い山地が続いている.このような三瓶山と周辺域において,水源井(もっとも深い井戸で深度70m程度),湧水,温泉井を対象とした水文調査を2012年と2013年に実施し,地下水の一般水質,酸素・水素同位体,炭素同位体,ヘリウム同位体の測定を行った.その結果,地下水の水質・同位体的な特徴と地域性が明らかになった.また,中央火口丘群の南麓と東麓では,浅層地下水系への火山性流体の活発な混入が生じている可能性が示唆された.これらの内容について報告する.一般水質からは,中央火口丘群の南麓と東麓にあたる志学,東の原,角井地区の地下水はNa-Cl型もしくはNa-HCO3・Cl型の組成を示し(カルデラ内の他の地域はCa-HCO3型かNa-HCO3型),さらに溶存成分濃度も顕著に高いという地域性が明らかになった.酸素同位体比と水素同位体比はそれぞれ-8.9 - -8.1‰δ18O, -51 - -46‰δDと非常に狭い範囲の値を示し,カルデラ内の地下水に明確な地域差は認められなかった.この結果は,三瓶山の中央火口丘群では地下水の主涵養標高には山麓毎に大きな差はなく,それぞれの山麓の地下水の流動距離が似通っていることを示唆していると考えられる.一方で志学,東の原,角井地区の地下水は炭素同位体比が-9 - -5‰δ13Cと,他の地域と比べて高い値を有することがわかった.同時に全炭酸濃度も明らかに高く,炭素同位体比と全炭酸濃度プロットにおいて地下水は火山性流体(-5‰δ13C前後)と降水浸透水(-21 - -19‰δ13C)を結ぶ混合ライン上に分布する.このことから,中央火口丘群の南麓から東麓にかけての地下水には火山性流体の混入が生じているものと判断された.これは,地下水がNa-Cl型もくしはNa-HCO3・Cl型という塩化物イオンに富んだ水質を呈する(前述)こととも整合的である.同地域は地質的には中央火口丘群の中でもっとも形成時期の古い日景山溶岩の分布域とほぼ重なる.当日は,温泉水の分析データや現在測定を進めているヘリウム同位体の結果を加味することによって,三瓶山と周辺の地下水の流動系や水質形成プロセスについて地質学的な側面も含めて議論したい.