日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW28_30PM2] 流域の水及び物質の輸送と循環-源流域から沿岸域まで-

2014年4月30日(水) 16:15 〜 17:45 314 (3F)

コンビーナ:*知北 和久(北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)、中屋 眞司(信州大学工学部土木工学科)、小林 政広(独立行政法人森林総合研究所)、齋藤 光代(岡山大学大学院環境生命科学研究科)、吉川 省子(農業環境技術研究所)、奥田 昇(京都大学生態学研究センター)、座長:小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)

17:15 〜 17:30

[AHW28-P11_PG] 熊野灘沖南海トラフ堆積物中におけるヒ素濃度の分布

ポスター講演3分口頭発表枠

*吉西 晴香1 (1.大阪市立大学大学院理学研究科)

キーワード:ヒ素, 南海トラフ, IODP

ヒ素汚染地下水は世界中で深刻な問題となっている。特に、バングラデシュやインドの西ベンガル地域など、ヒマラヤ山系に源流域を持つ大河流域で汚染が進んでいることが知られている。ヒ素の原因物質は泥岩中の硫化鉱物であると考える研究者がいるが,どのようなメカニズムで堆積岩中にヒ素が濃縮するのかは、あまり研究がされていない。そこで本研究では、現世の付加体堆積物中における初期続成作用に伴うヒ素の挙動を探ることを目的として堆積物と共存する間隙水中のヒ素濃度の深度ごとの変化を追跡した。
 本研究では統合国際深海採掘計画(IODP)の第338回航海によって南海トラフ、熊野海盆沖で採取された3地点(C0002、C0021、C0022)で得られた間隙水とそれを搾り取った後の堆積物試料を用いて、主成分とヒ素濃度の測定を行った。堆積物については主成分鉱物組成も分析した。C0002地点は半遠洋性のタービタイト末端堆積物で構成される。C0021地点は地滑り堆積物で構成されている。C0022地点はスプレー断層直上で100mbsf(mbsf=meters below the seafloor)に断層が観察されている。
 間隙水中でのヒ素の濃度はC0002では、200-300mbsfまでは0-1.1μMであるが300-400mbsfまでは深度に伴いおよそ3μMまで増加傾向にある。400mbsfで最大値をとると、その後は減少する。C0021では、0-160mbsfまではヒ素濃度は平均して0.2μMで深度による変化はほとんど見られない。しかしその後200mbsfまでにヒ素濃度は急増している。C0022では、0-100mbsfまでは、ヒ素濃度は0.3μMまででほとんど変化しない。その後130-160mbsfで高いピーク(1.5μM程度)をとり、200mbsfまでは急減する。200mbsf以深は深度による変化は見られない。一方、堆積物中でのヒ素濃度はC0002(300-500mbsf)では40-120μM、C0022(100-150mbsf)では40-90μMであり、濃度変化は深度によらない。XRDで検出された鉱物組成はいずれの地点でも主に石英、長石、雲母、方解石、粘土鉱物類、緑泥石・カオリナイトで構成されており、角閃石、黄鉄鉱が検出された試料もあった。
 船上分析による間隙水中の主成分組成との比較から、ヒ素濃度はpHや鉄、鉛、マンガンと関係していることが分かった。ヒ素は多くの微量重金属と同様に海底面で酸水酸化鉄とともに共沈して堆積物に濃縮し、還元的な環境下で脱着ないしは酸水酸化鉄の分解に伴っていったん間隙水中に溶出すると推定される。その後、深度が増すと黄鉄鉱などに固定されると考えられるが、最終的にヒ素を固定する鉱物は現時点では不明である。