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★ [BGM22-01] 植物根圏は温室効果ガス代謝のホットスポット
キーワード:メタン, 一酸化二窒素, 根圏, 根粒菌, 細菌, 安定同位体
根圏微生物研究の創始者であるHiltnerは1904年にマメ科植物根の周辺土壌では細菌数が増加することを明らかにし、それは根粒から放出される窒素化合物の影響であると考察した。演者らは、ダイズ根粒はN2Oを吸収する能力が高いにも関わらず、圃場環境ではマメ科作物根圏からN2Oが発生するという矛盾に関心を持ち、分子生態学的な手法によりN2O発生機構の解明を行ってきた。N2Oは強力な温室効果ガスであり、オゾン層破壊ガスでもあるからである。その結果、老化根粒では根粒タンパク質を物質的な起点とする一連の食物連鎖と窒素形態変化(根粒タンパク質→アンモニア→亜硝酸→N2O)の中でN2Oが発生すると考えられた。また、N2OからN2への還元はnosZ+根粒菌が担っており、根粒根圏から発生したN2Oを吸収しN2に還元するため、nosZ+根粒菌により根圏全体のN2O発生が削減できることを室内実験および圃場レベルで明らかにした。N2OからN2への還元能力を強化した突然変異株nosZ++根粒菌は、N2O還元活性が高く、比較ゲノム解析からその原因となる遺伝子が同定された。 肥料削減は持続的農業の一つの目標である。窒素条件を変化させた水田に栽培したイネ植物体に生息している細菌群集構造の解析を行った。その結果、低窒素環境でイネ根にBurkholderia, Bradyrhizobium, Methylosinus属の特定の細菌群の相対存在比が上昇した。機能遺伝子として、メタン酸化や植物ホルモン関連遺伝子の相対存在比が低窒素環境で上昇し、これらの現象は、定量PCRおよび13C標識メタン添加実験からも支持された。また、低窒素区のイネ根では、N, S, Feおよび芳香族化合物の細菌代謝関連遺伝子が増加した。これらの結果は、低窒素環境が水稲根の共生細菌群集を形作る鍵因子であり、水田生態系の生物地球化学的過程に影響することを示唆している。植物は微生物共生を通じて窒素やリン等の栄養を獲得するため、栄養が貧弱な土壌でも生育できる。近年、イネ科植物にもマメ科植物の共生遺伝子CCaMKが微生物共生に必須であることが示唆されている。微生物群集構造解析の結果、圃場生育したCCaMK変異イネ根でRhizobiales目を含むいくつかの共生細菌が減少した。Rhizobiales目細菌には窒素固定細菌やメタン酸化細菌が多く存在する。そこで、水田におけるメタンフラックスを調べた。日本晴とCCaMK変異体(NE1115)は、低窒素区においてメタンフラックスが有意に約2倍上昇した。一方、慣行区では両者に差が観察されなかった。種々の解析の結果、イネCCaMK遺伝子が低窒素環境でメタン酸化窒素固定微生物を受容している結果が得られた。15N自然存在比の結果は、日本晴地上部におけるδ15NがNE1115より有意に低く、空気中の軽い窒素で希釈されたため窒素固定が上昇したことが強く示唆された。以上の結果より、イネCCaMK遺伝子が低窒素環境でメタン酸化窒素固定微生物を受容していると考えられた。窒素施肥レベルなどの環境変動下の群集構造解析から、鍵微生物と推定される微生物の分離と特性解析を行った。