日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-GM 地下圏微生物学

[B-GM22_30AM2] 地球惑星科学と微生物生態学の接点

2014年4月30日(水) 11:00 〜 12:45 415 (4F)

コンビーナ:*砂村 倫成(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、木庭 啓介(東京農工大学大学院農学研究院)、高井 研(海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター)、座長:井尻 暁(独立行政法人海洋研究開発機構)、柳川 勝紀(海洋研究開発機構)

11:15 〜 11:30

[BGM22-08] 西南日本の付加体深部帯水層における微生物ポテンシャルと物質循環

*松下 慎1木村 浩之1 (1.静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻)

キーワード:付加体, 深部帯水層, メタン生成, 発酵, 微生物共生, 地下環境

西南日本の太平洋沿岸は「付加体」と呼ばれる厚い堆積層からなる. この堆積層の深部地下圏には嫌気的な地下水が貯留された帯水層が広く分布しており, その深部地下水には大量のメタンが溶存していることが知られている. 静岡県中西部に存在する地下150 mから1,500 m掘削された大深度掘削井では, 深部地下水とともにメタンを主成分とする付随ガスも検出することができる. 静岡県島田市の大深度掘削井において行われた過去の研究では, 付加体深部帯水層において微生物群集によるメタン生成が行われていることが明らかにされている. しかし, 付加体における広域での微生物学的, 地球科学的研究は未だ行われていない. そこで本研究では, 静岡県中西部に存在する14か所の大深度掘削井から深部地下水と付随ガスを採取し, 各種環境データ測定, 地球化学分析, 微生物の嫌気培養, 遺伝子解析を試みた. そして, 付加体の深部地下圏における微生物ポテンシャルと物質循環に関する知見を得た. 深部地下水の水温は24.2℃から49.3℃, pHは弱塩基性であった. 酸化還元電位は全ての大深度掘削井で-325 mVから-114 mVの値を示した. 電気伝導率は92 mS m-1から2,110 mS m-1と地下水サンプルによって幅広い値を示した. 地下水中のNO3-やSO42-, S2-濃度は検出限界以下であり, 溶存有機炭素 (DOC) 濃度は0.3 mg l-1以下から 50 mg l-1と多様であった. 付随ガスの分析から, 多くのサイトの付随ガスにメタンが90%以上含まれていることが明らかとなった. 一方, 幾つかのサイトではメタン (50-80%) 以外にも窒素ガスが20%から50%ほど含まれていた. 付随ガスのメタンと地下水の溶存無機炭素 (DIC) の炭素安定同位体比分析により, 多くのサイトでの付随ガスに微生物起源のメタンが含まれていることが示唆された. 深部地下水に有機基質を添加した嫌気培養実験の結果, 2-3日以内に水素発生型発酵細菌による水素ガスと二酸化炭素の生成が確認された. さらに, 水素発生型発酵細菌と水素資化性メタン生成菌の共生コンソーシアによるメタン生成も培養開始から3-5日以内で確認された.バクテリアの16S rRNA遺伝子を対象とした遺伝子解析より, 水素発生型発酵細菌が優占していることが明らかとなった. また, 付随ガスに20%から50%の窒素ガスを含んでいたサイトからは脱窒菌の存在も示された. アーキアの16S rRNA遺伝子を対象とした遺伝子解析では, 深部地下水中に水素資化性メタン生成菌が優占していることが示された.一連の研究結果より, 広範囲の付加体地下圏において, 水素発生型発酵細菌と水素資化性メタン生成菌の共生によって堆積層に含まれる有機物からメタンが生成される炭素循環が存在することが明らかとなった. また, 幾つかのサイトではメタン生成に加えて, 有機物またはメタンを電子供与体とし, NO3-またはNO2-を電子受容体とする脱窒が行われている可能性も示唆された.