日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT23_30AM1] 地球史解読:冥王代から現代まで

2014年4月30日(水) 09:00 〜 10:45 411 (4F)

コンビーナ:*小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(独立行政法人海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域)、座長:佐藤 峰南(九州大学大学院理学府)

09:45 〜 10:00

[BPT23-04] 南中国三峡地域の前期カンブリア紀の地層の窒素同位体比変動

*土谷 祐貴1田畑 美幸2西澤 学3澤木 佑介2佐藤 友彦2小宮 剛1 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻、3.海洋研究開発機構)

キーワード:Nitrogen isotopes, Chemostratigraphy, Cambrian

地球は唯一高等生物が存在する天体である。そこで、高等生命につながる後生動物出現と進化は地球・生命進化の解明においてもっとも重要な問題であるが、その原因は未だ解明されていない。私たちは、後生動物の出現と初期進化の原因を解明するために、南中国でエディアカラ紀からカンブリア紀の地層の掘削と化学層序の一連の研究を系統的に行ってきた。その結果、海洋中の生命必須元素の変化は後生動物進化に大きな影響を与えたことが分かってきた。そこで、本研究では、生命必須元素のなかでも、特に重要な海洋栄養塩である窒素に着目し、カンブリア紀初期の海洋硝酸塩濃度の変動を解読し、その変動を復元した。南中国には、エディアカラ紀からカンブリア紀の地層が保存良く存在しており、その地層の研究は当時の表層環境を解読するのに適す。また、三峡地域は当時の大陸棚内の浅海に位置していたと考えられている。Kikumoto et al.(2014)は炭酸塩岩や黒色頁岩中の炭質物中の有機窒素の窒素同位体比を分析し、エディアカラ紀前期から中期までは窒素同位体比が高く、中期からカンブリア紀最初期は低く、初期カンブリア紀中期以降に再び高くなるといった変動を得た。その変動から海洋中の硝酸濃度の変動を復元し、エディアカラ前期?中期までの海洋中の硝酸濃度は枯渇していたが、エディアカラ紀中期からカンブリア紀最初期に富み、初期カンブリア紀中期後に、再び枯渇したと提唱した。一方、海洋中のリン濃度はエディアカラ紀前期では高く、エディアカラ紀中期以降に減少する。エディアカラ紀前期から中期までは海洋のリン濃度と硝酸濃度には相関が見られ、硝酸濃度の増加のタイミングは海洋リン濃度の減少の時期と一致するとされた(Shimura et al., 2014)。つまり、海洋中の硝酸濃度は海洋中のリン濃度が枯渇したため、相対的に硝酸が富有したとされた。一方、カンブリア紀中期以降に窒素同位体が高くなることに関しては、いまだ多くの問題点が残る。一つ目は、先行研究では、初期カンブリア紀中期以前の低い窒素同位体比は水井沱層の黒色頁岩で見られ、それ以降の高い窒素同位体比は石碑層中部より上位の炭酸塩岩で見られるため、窒素同位体の変化が岩相の違いによるのかが明らかにされていなかった。二つ目は、窒素同位体変動の途上の部分のデータが得られていないので、その変動が遷移的か、急激なのかが不明であった。また、その変動の詳細な時期も不確かであった。そして、窒素同位体比の変動時の他のproxyの挙動が明らかでなかった。そこで、本研究ではこれらの問題を解決するために、その欠損部分の掘削を行い、炭酸塩岩や黒色頁岩中の堆積物中の有機窒素の窒素同位体比を分析した。本研究で用いられた岩石試料は、南中国三峡地域で採取された水井沱(Shuijintuo)?石碑(Shipai)境界の部分である。得られた窒素同位体比はShuijintuo層では-2から+2‰まで上昇し、その後、Shipai層ではおよそ+1から+3‰で安定した値を示した。本研究の結果、窒素同位体の変動は岩相の違いとは関係ないことが分かった。窒素同位体比と全有機窒素含有量には明瞭な相関は見られなかった。一部のデータに全体の窒素同位体トレンドとは優位に低い値が見られたが、それらと全有機窒素含有量にも明瞭な相関は見られなかった。また、窒素同位体比の増加はShuijintuo層最上部の黒色頁岩層で見られた。その変動は遷移的であり、急激な変化ではなかった。また、炭素同位体比と対比した結果、炭素同位体には明瞭な変化が認められなかった。このような結果は、堆積場の違いなどではなく、この時期に海洋表層環境が変化したことを示し、特に窒素同位体比の上昇は表層の硝酸含有量が低下したことを示す。つまり、カンブリア紀初期に富硝酸な環境が終了し、一次生産の上昇とともに硝酸が枯渇し、現在の海洋と同様に脱窒の働きが大きくなったことを示す。つまり、カンブリア初期に現在型の海洋窒素循環が確立されたことを示す。一次生産の増加は、大気・海洋中の酸素濃度の上昇をもたらすと考えられる。そのような酸素量の増加がカンブリア爆発の増加につながったことを示唆する。