日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT25_2PM1] 地球生命史

2014年5月2日(金) 14:15 〜 16:00 416 (4F)

コンビーナ:*本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(静岡大学理学部地球科学科)、座長:生形 貴男(静岡大学理学部地球科学科)、本山 功(山形大学理学部地球環境学科)

14:45 〜 15:00

[BPT25-03] ネオジム同位体シグナルからみた後期白亜紀北西太平洋における中/深層水形成

*守屋 和佳1Moiroud Mathieu2Puceat Emmanuelle2Donnadieu Yannick3Bayon Germain4Deconinck Jean-Francois2Boyet Maud5 (1.金沢大学・自然システム・地球環境、2.UMR CNRS Lab. Biogeosciences, Univ. Bourgogne、3.UMR CEA/CNRS Lab. Sci. Climat Environ., CE Saclay、4.IFREMER,Unite Recherche Geosciences Marines、5.UMR CNRS Labo. Magmas Volcans, Univ. Blaise Pascal)

キーワード:白亜紀, 海洋循環, ネオジム同位体, 北太平洋, 深層水, 中層水

白亜紀は,地球史において最近の典型的な温室地球時代として知られており,大気中の二酸化炭素濃度の増加に対する気候感度を推定する際の極相のひとつとして多くの研究が行われてきた.未だに大気中の二酸化炭素濃度の推定には不確定要素が多いものの,海洋水温は様々な緯度や海域において解析され,表層水温の緯度勾配や表層・深層水温の時代変遷等が明らかにされてきた. 近年では,地球表層におけるエネルギー循環の担い手の一つとして,当時の海洋循環に関する研究も盛んに行われるようになってきた.しかし,これらの研究の多くは大西洋を対象としたものであり,白亜紀においては唯一の大洋であり,全球のエネルギー循環に大きな影響を及ぼしたと考えられる太平洋においてはほとんど議論が行われてこなかった.これは,太平洋においては白亜紀の堆積物を含む多くの海洋プレートが海溝部での沈み込みに伴い消失していることが大きな要因となっている.そこで,本研究では,白亜紀の北西太平洋の大陸プレート上に堆積した前弧海盆堆積物を研究の対象とすることで,これまで議論が不十分であった,白亜紀における太平洋の海洋循環の一端を明らかにすることを試みた.研究の対象とした蝦夷層群は,当時の太平洋の北西部に位置しており,水深約400m程度の海盆に堆積したものである.この堆積物中に含まれる魚歯化石を抽出し,そのネオジム同位体組成を計測することで,白亜紀後期チューロニアン期後期からカンパニアン期初期における北西太平洋の海洋循環を議論する. 魚歯化石から得られたネオジム同位体組成は−1から−2 ε-unit程度を中心として分布し,極めて高い値を示した.先行研究によりカンパニアン期からマーストヒリチアン期の赤道太平洋(シャツキー海台)で得られた,−4から−5 ε-unitという値と比較してもより高く,これまで得られている白亜紀のネオジム同位体組成の中でも最も高い値の一つに相当する.これは,北西太平洋の島弧による火成活動に由来すると想定されるradiogenicなネオジムを多く含む水塊が存在していたことを示すと考えられる.太平洋の赤道付近で得られている値とも異なることを考慮すると,当時の蝦夷層群が堆積した北西太平洋北緯約40度付近には,北西太平洋由来の中,ないし深層水の形成があったと考えることが妥当である.この北西太平洋における中/深層水の形成は,気候モデルによる解析からも示唆されており,特に,白亜紀前期から中期にかけての最温暖期から寒冷化傾向に向かう白亜紀後期においては,北西太平洋で深層水が形成されることが予測されていた.この中/深層水がどの程度の水深にまで達していたか,については現時点では議論することができないが,本研究により,白亜紀後期における海洋循環系の新たな一面が明らかになった.