日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-02_29PM1] 地球惑星科学のアウトリーチ

2014年4月29日(火) 14:15 〜 16:00 423 (4F)

コンビーナ:*植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)、小森 次郎(帝京平成大学)、座長:千葉 崇(筑波大学生命環境系)

15:45 〜 16:00

[G02-07] インド・ヒマラヤの高校における防災教育 II -ハザードマップ作りに見る高校生の意識変化

加藤 愛梨1別役 昇一1花岡 直弥1高嶺 遼1安達 智之1木村 素子2纐纈 一起2伊藤 貴盛1、*大木 聖子1 (1.慶應義塾大学 環境情報学部、2.東京大学 地震研究所)

キーワード:防災教育, 地震, ハザードマップ

事前予測が極めて困難である地震災害から命を守るためには,発災する前に防災行動を起こす必要がある.一方で,地震学などの災害科学はリスク軽減を目指してハザード評価を行っている.ところが,こうして得られたハザード評価を市民にわかりやすく伝えることで,防災意識が高揚し,防災行動を起こすことにつながるかというと,必ずしもそうではない [大木・中谷内, 2012,矢守,2013等].つまり,自然災害のリスク軽減には,ハザード評価やその報告だけではなく,防災行動を起こすような動機付が不可欠である.我々はこれを意識しながら,インド国内での地震リスクが最も高いヒマラヤ地域にある高校生を対象に,防災教育ワークショップを行った.「地震災害の自分の事化」「内的な説得力の獲得」をコンセプトに,自身が防災行動を起こすこと,さらには他者の防災行動を促すアクターとなることを目指した.ワークショップは,地震のメカニズムやヒマラヤと地震発生の関係などの解説を中心とした背景にあるハザードの科学的理解と,ハザードマップ作りとから成る.また,セッションに先立ち,災害に対するリスク認知を問うアンケート調査を行った.ハザード解説のあとで1時間以上に及ぶ質疑応答の時間を取ったが,ここで出た質問内容の分析と先のアンケート結果を踏まえれば,生徒たちはハザードについて科学的に理解したものの,各人が被災するリスクやその回避方法に言及した質問はひとつもなく,この時点では「地震災害の自分の事化」が達成されていないことが伺える.翌日,ハザードマップ作りとその発表会を行った.前日の復習のあとで,著者らが2011年3月11日に何をしていたかを述べ,災害がどのような状況で起こるか選ぶことはできないことをメッセージとして伝えた.目の前にいる日本人がそれぞれの物語を伝えたことで,あの日に命を奪われた東北の犠牲者たちにも同じように物語があったこと,それが災害によって突如として奪われることの理解を促した.続いてリスクの見つけ方を「落ちてこない・倒れてこない・移動してこない」をキーワードに教え,「大きな危険・小さな危険」の区別を意識させることで,リスクの大小の概念を導入した.これらを踏まえて,グループごとに,校舎内・キャンパス内・キャンパス外の町を対象に,約1時間のハザードハンティングに出かけた.見つけたハザードはGPS機能付きのiPhoneで写真を撮る.教室に戻ってから,撮影済みの写真から15枚を選び,紙に写真を貼る手描きのアナログマップ,あるいはGPS情報を活用してGoogleの地図上にアップロードするデジタルマップのいずれかを作成した.最後に,見つけたハザードやリスクについて,グループごとにプレゼンテーションを行った.プレゼンテーションでは前日までには聞かれなかったさまざまな言葉が発された.「私はこの授業を受けるまで,地震が自分にも起こるものだとは夢にも思っていなかったです。教わった今、私はもっと気をつけなければいけないし、家族や近所や友達などにこのことを伝え、より多くの命の安全に貢献したいと思っています」「私たちの命は神から与えられたかけがえのない贈り物です。ふざけてはいけません。もしふざけた気持ちになったときは家族のことを思い出してください」.生徒たちのこのような意識の変化は,2日目の活動を通してその最終段階に見られたものである.「地震災害を自分の事化」し,「内的説得力を持つ言葉を獲得」して,さらに他者へのメッセージとして発表している.本発表では,2日間のワークショップの詳細を述べ,このような活動が日本以外の地震国においても有効であるために必要なことを論ずる.