日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-03_29AM1] 小中学校の地球惑星科学教育

2014年4月29日(火) 09:00 〜 10:45 423 (4F)

コンビーナ:*畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、座長:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)

09:15 〜 09:30

[G03-02] 別海小学校出前授業“地形と地質から土地の成り立ちを調べる!”:企画と実践

*七山 太1重野 聖之2中山 陸3辻 隆史3佐藤 慎3池田 保夫3 (1.産業技術総合研究所 地質情報研究部門、2.明治コンサルタント(株)本店、3.北海道教育大学釧路校)

キーワード:別海小学校, 出前授業, 地形と地質, 土地の成り立ち, 北海道東部, 湿原

2011年3月11日の東北日本太平洋沖地震を契機として,教育の現場では防災減災の為の理科教育,特に地学教育の重要性が見直されている.しかし,小,中,高の教育の現場で活躍されている教諭の皆様からよく聞く悩みの一つが,“教科書に扱われるような地学教材が地元には無いので,たいへん困っている・・・”という旨の話であった.例えば,地層の授業を行おうにも,児童に見せる露頭が近所に無いという.しかし,我々フィールドジオロジストの立場から言わせて頂くならば,“そのような地元に根付いた(=地元にしか無い)地学教育の教材は,実はどんなところでもあり,その価値を見いだす視点と知識こそが大事である,というかって茨城大学教育学部の牧野泰彦教授が仰っていたのを思い出し,是非これを実践してみたい!”と七山と重野は平素から考えていた矢先でもあった.別海町郷土資料館の石渡一人氏から,“11月に予定されている科研費調査期間の中に,北海道野付郡別海町にある別海小学校5,6年生13名を対象とした郷土学習の出前授業を請け負ってくれないか?”という相談であった.丁度その時には,将来,小中学校の教員を目指す北海道教育大学釧路校の理科教育専攻の学生,中山 陸,辻 隆史,佐藤 慎が池田保夫教授に連れられて野外調査実習に来ることになっていたので,彼らと一緒に特別授業を行うことを企画した.2013年11月7日(木),3?4時限目(10:40?12:15)の奥村康史教諭の理科の2コマの時間を頂いて,“地形と地質から土地の成り立ちを調べる!”というテーマで特別授業を実践した.最初に,講師の七山が自己紹介を行い,続いて別海町の街の名所や名産品について児童に自由に発言してもらった.それを授業の導入として,釧路?根室地方の地形や地質の特徴,さらに,3年間の我々の調査で解明された風蓮湖周辺の分岐砂嘴(さし)の成り立ちに関する話(七山ほか,2013;Nanayama et al., 2013)を小学生高学年でも理解できるように30分間にわたって出来るだけわかりやすく丁寧に話しをした.特に,別海地域が千島海溝沿岸の地震多発地帯にあり,現在も年1㎝/年を越える速さで沈降している事実については,事前に用意したパワーポイントファイルもハンドアウトもできるだけ専門用語を用いず,平易な言葉で言い換える努力を試みた.一方,別海地域には,過去4000年間に限っても,道東の摩周火山以外にも道南の北海道駒ケ岳火山,樽前火山の火山灰が度々降ってきており,自宅周辺の地面を30cmほどシャベルで掘れば簡単に江戸時代に降った火山灰層が確認できることを説明した.6年生は理科で地層の勉強を行ったところでもあったので,我々の準備した話の概要は十分理解して頂けたと感じとった.一方5年生は地層が下位ほど古いという基礎的な概念から教える必要があったが,“深い=古い”という地質原理は,我々が教える前から直感として理解出来ているようにも思えた.次に,別海小学校付近のGoogle Earthの拡大した画像をA3サイズでカラー印刷したプリントを児童に渡し,以下7つの手順で授業を進めた.①校舎の屋根の色に注意して,別海小学校の場所(=自分のいるところ)に丸印をつけてもらった.②プリントを見ながら別海小学校周辺の地形について,気がついたことを自由に発言してもらった.③別海小学校が台地の上に立地することを教えた上で,河口付近の低地に西別川が残した蛇行河川跡を鉛筆でなぞってもらった.この作業によって,現在の河道は人工的に作られたものであることを気づかせた.④西別川河口の南東側に点在する細長い沼に着目してもらい,現在の河口は漁港を作るために浜堤を人工開削して作られたものであって,その昔はその南東側に河口があったことを気づかせた.⑤別海小学校付近にある浜別海遺跡という4000年前の縄文時代の遺跡の話題を切り出し,4000年前に何故この場所に縄文人が住居を構えたのかについて,考えさせた.⑥最後に,“小学校裏の湿地は何時からあるのか?4000年前は,この土地はどのような場所であったか?”と児童に問いかけをした.その解決のために,湿原を掘って地層を調べることによって,過去の地形が分かる可能性を示唆し,実際にみんなで掘ってみることを提案した.⑦柱状図を書き込むA4サイズの用紙を配布し,簡単な記載方法を指導した.その前に,児童にスライドを見せて,現在の湿原は直物が腐って出来た泥炭層からなること,その中には白色やオレンジ色の火山灰層が挟まれていること,上位から400年前の江戸時代,2500年前の弥生時代,4000年前の縄文時代に飛来した火山灰層であることだけを事前に教えておいた.