日本地球惑星科学連合2014年大会

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[G-04_29PO1] 高等学校の地球惑星科学教育

2014年4月29日(火) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)

18:15 〜 19:30

[G04-P01] 「科学と人間生活」の問題点と可能性

*中島 健1 (1.滋賀県立大津清陵高等学校・通信部)

キーワード:高校地学教育, 教科書需要数, 科学と人間生活, 総合科目

高校の学習指導要領改訂に伴い新設された「科学と人間生活」の履修者は2014年度は43万で,「地学基礎」の履修者数を大きく上回る結果となった。「科学と人間生活」に含まれる地学領域の内容量は全体の5分の1程度だが,高校生の3人に1人が履修することから考えると,地学教育にとってこの科目は決して無視できない存在であるといえる。またこの科目は自然と人間の関係,特に自然災害や自然から受ける恩恵を扱っている科目である。しかしその内容は決して十分であるとはいえない。持続可能な社会を生きていくために必要な力を生徒が身につけるためには,この科目の内容のさらなる精査が必要である。
(1)「科学と人間生活」の履修者
 2014年度でみると,ほぼ全員が履修すると考えられる「数学I」「コミュニケーション英語I」「保健」が約128万に対し,「科学と人間生活」は43万(34%)であり,このことは「地学基礎」の32万(25%)の約1.4倍である。これは,理科の必履修要件が{基礎3科目}または{「科学と人間生活」と基礎1科目}となっていることと大きく関係している。本来なら1961~72年の4領域12~16単位必履修が理想であろうが,その後は総合科目または2領域の基礎系科目4~8単位が必履修とされていた。その流れの中で,前課程では「理科基礎/理科総合A/理科総合B」を含む2科目の4~5単位が必履修であった。理数教育の強化を謳った現行課程に移行するにあたり,基礎3科目必履修の効用が大きく取り上げられるようになったが,実はそのためには最低6単位が理科に振り分けられる必要がある。一方「科学と人間生活」を開講すれば,理科は4単位で済む。2012年度新入生から,理数以外の教科が旧課程のまま理数のみを前倒しで新課程に移行する中で,他教科を削り理科の総単位数を増加させるということは難しかったであろう。また2013年度以降も,1973年以来長きにわたって理科離れが定着していた中等教育の下で,生徒にとっても教員にとっても,学ぶべき理科の科目数や単位数を今さら増加させることにはかなりの躊躇や,他教科からの抵抗が存在すると思われる。よって,当初専門学科や総合学科などで開講されるとみられていた「科学と人間生活」が,全日制普通科にもかなり浸透したものと考えられる。大学受験には使えない科目であるにもかかわらずである。
(2)「科学と人間生活」の内容
 標準2単位で,物理・化学・生物・地学の各領域に相当する部分と,科学技術に相当する5章からなる。年間60時間強の授業がある中で,各領域に割り当てられる時間は,12,3時間程度とみられる。その中で,地学領域では「太陽系と地球」または「身近な自然景観」のどちらか一方を選択して学習する。もし後者を選んだ場合,その内容は「自然景観の形成」と「自然災害」について,「地震」「火山」「流水」の3つの観点から学んでいくことになる。各観点につき3時間程度の割り当てしかないが,その中で各事象の起こるしくみ,災害,実験実習を消化しなければならない。したがって内容を深めることは難しく,中学校理科第2分野を思い出すだけで終わってしまいかねない(よくいえばスパイラルだが)。また学習指導要領で謳われている「自然の恵み」は,ほとんど触れられずじまいになっている。
(3)「科学と人間生活」の今後
 このような科目ではあるが,高校生の3分の1が学び,それが「地学基礎」を上回っていること,さらにこの科目が人生の中で地球惑星科学や災害科学を学ぶ最後のチャンスになるかもしれないということを考えると,単に教育界だけでなく地球惑星科学界がこの科目に対しどのように取り組み発展させていくかが,国民の地球惑星科学リテラシー形成に大きく関わってくると思われる。
<参考>時事通信社:高校教科書採択状況,内外教育,2001~2014