12:15 〜 12:30
[HDS27-12] 津波警報の情報価値との関係が明確な適切な採点法
キーワード:期待効用理論, 合理的な意思決定, コスト/ロスモデル, スコア, 二値予報
新たな予測手法を導入して津波警報を確実に改善するには、予報精度を適切に評価する採点法が存在し、新手法を導入した場合に発表されるであろう予報の採点結果(スコア)が従来手法による予報のスコアを上回ることが必要条件である。しかし、この条件を満たす手順を経て津波警報の新手法が導入された実績はなく、それどころか、津波警報を採点する適切な方法も知られていない。雨が降るか降らないかのように現象の有無を対象とする二値予報を対象とした採点法で、気象予報の分野で広く使われるものには、予報を利用した場合の効用増加分の期待値と結び付けられたものがある。その際、予報利用者が現象に備える対策コスト(C)と無対策時のロス(L)に対する効用関数(U)が既知で、現象が有ると予報されれば必ず対策をとると仮定する。また、予報の保全対象のコスト/ロスモデルとしてU(-C)/U(-L)について単純な確率密度分布を仮定している。一般には、ある予測対象セット(例えば一定期間)の現象の有無について、予報あり実況あり(的中Na)、予報あり実況なし(空振りN_)、予報なし実況あり(見逃しNc)、予報なし実況なし(的中Nd)の各頻度である4つの数値を式にあてはめて、スコアが算出される。例えば、スキルスコア(ETS≡(Na-K)/(Na+N_+Nc-K)、ただしK≡(Na+N_)●(Na+Nc)/(Na+N_+Nc+Nd))がこのような採点法である。本研究では、津波警報の情報の性格に合った採点法を新たに開発するために、以下の全ての条件を満たす採点式を導出した。(1) 津波警報なし実況なしの的中頻度は計数不可能なため、Ndを用いないスコアであること。(2) 津波警報ありの場合に予報利用者が必ず対策を取るという仮定は実態に即していない。そこで、予報利用者は、津波警報ありの場合は、対策を取ると取らないの二つの選択肢から選び、津波警報なしの場合は、常に対策を取らないとする。効用の変化量は、対策を取る時はU(-C)、無対策で現象が起きる時はU(-L)とする。(3) 予報利用者は、警報の空振り率(FAR≡N_/(Na+N_))の期待値、および、U(-C)、U(-L)を知っており、期待効用(Ex(U))を最大化する行動を選択するという合理的な意思決定をする。対策を取ればEx(U)=FAR●U(-C)、対策を取らなければEx(U)=(1-FAR)●U(-L)であるから、U(-L)/U(-C)a+N_回の警報で、対策を取って失わずに済んだ効用と対策に要した効用の合計を(4)の分布について積分したものを△Uとする。警報が存在しない場合には毎回-U(-L)の効用を失うので、それで割ったV≡-△U/((Na+Nc)U(-L))を情報価値と定義する。結果、(a),(b),(c)の各モデルから導かれるスコアは次のとおり。(a)からは、V=Na2/(2(Na+N_)(Na+Nc))を得られる。優れた予報Na≫N_かつNa≫Ncならば、スレットスコア(CSI≡Na/(Na+N_+Nc))を用いて、V≒CSI/2と近似できる。(b)からは、見逃し率M≡Nc/(Na+Nc)を用いてV=(2/3)(1-FAR)(1-M)(1+M/2)が得られる。見逃しが少ない予報(Nc≪Na)ではV≒(2/3)(1-FAR)(1-M/2)となる。(c)からは、V=(1-FAR)2(1-M)/3が得られる。このように、最適な採点法は、災害対策によって異なるコスト/ロスモデルにより変わる。社会構造を反映した採点法を用いて、適した予測手法を選択するべきことが分かる。大会では、これら採点法の具体的な適用に向けての課題も議論したい。