日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS29_28AM2] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2014年4月28日(月) 11:00 〜 12:45 415 (4F)

コンビーナ:*千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(国土技術政策総合研究所)、座長:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)

12:00 〜 12:15

[HDS29-05] 地すべり性斜面変動の前兆を干渉SARと航空レーザ測量で捉える

*小荒井 衛1中埜 貴元1戸田 堅一郎2大丸 裕武3 (1.国土地理院、2.長野県林業総合センター、3.森林総合研究所)

キーワード:深層崩壊, 地すべり性変動, 干渉SAR, 航空レーザ測量, 長野県

深層崩壊や地すべり性斜面変動の前兆を干渉SAR技術で捉えようという取り組みがなされている。これまでに、山形県月山山麓の七五三掛地すべりでの検証(佐藤ほか,2012)や秋田県東成瀬村の狼沢地すべりでの検証(岡谷ほか,2012)などの結果がある。本研究では、深層崩壊の可能性のある斜面変動域を対象に、干渉SARと航空レーザを組み合わせたモニタリング手法の有効性を検証しようというものである。本研究は科学研究費補助金(研究課題番号:22500994;研究代表者:大丸裕武)による。主な検証フィールドは、長野県と静岡県である。使用した干渉SARの画像は、地球観測衛星「だいち」(ALOS)のLバンドSARであるPALSARのデータを使って国土地理院測地部宇宙測地課が干渉SAR解析を行ったもので、一部はWeb公開されている。静岡県静岡市の口坂本地すべり付近では、2008年秋と2009年秋にSAR干渉画像で有意な変動が発生しており、2009年は約1ヶ月半で電波照射方向(LOS(line of sight)方向)に6~7cm程度変動していた。2012年11月の時点では、航空レーザ測量によるDEMで確認可能な地形変化を示す地すべり変動は発生していなかった。2013年6月の現地調査で倒木を伴う大きな地すべり変動が発生したのを確認しており、2012年11月~2013年6月の間に規模の大きな地すべり変動が発生したことがわかる。従って、2008年と2009年の干渉SARで捉えられた変動は、大規模な地すべり変動の前兆的変動である可能性が高く、干渉SARによるモニタリングで地すべり変動の前兆を捉えることの有効性を示した(中埜ほか,2013;小荒井ほか,2013)。また、長野県松本市の坂巻温泉の西側では、既存崩壊地の背後において2008年から2009年にかけて干渉SAR画像で有意な変動が発生しており、約1年間でLOS方向に6~7cm程度衛星から遠ざかる北東方向への変動または沈下があった(図1)。この変動域前面の既存崩落地では、2011年9月に大きな崩落が発生している。現地調査結果では、SARで変動の見られる範囲の縁で滑落崖や道路の段差が認められ、林道が通行止めになっていた。崩落前の航空レーザデータでは、崩壊斜面の背後に線状凹地が確認できる。これらの線状凹地は現地調査でも確認されている。以上のことから、坂巻温泉では干渉SARや航空レーザ測量で地すべり変動の前兆が捉えられていた可能性が高い。この他にも,干渉SARのアーカイブデータからは、長野県内で地すべり変動が検出されている可能性のある地域が幾つかある。天龍村虫川では、中段を走る林道の縦断勾配に変状があり、地すべりブロックの境界付近で40cm程度沈下していた。法止めブロック積には亀裂が多数あり、法狂いも見られた。地すべりブロックの冠頭部には幅1m程度のクラックが存在していた。航空レーザデータによる曲率-傾斜立体図(curvature- slope立体図;CS立体図)(戸田ほか,2013)では、滑落崖や小亀裂、舌状の高まりなど、地すべり特有の地形が確認できる。大鹿村小塩は、対策工の構造物に変状が認められた。こちらも、航空レーザデータによるCS立体図では、滑落崖や小亀裂、舌状の高まりなど、地すべり特有の地形が確認できる。長野県周辺の干渉SARアーカイブデータでは、北アルプス白馬岳北方の赤男山の東斜面や、八ヶ岳の天狗岳の東斜面で干渉SARによる明瞭な変動が認められている。これらについては,今後の現地調査等により確認を進めていく予定である。これまでの調査結果は、干渉SARでの変動域の抽出と、航空レーザによる微地形の抽出により、大規模地すべり変動のモニタリングが可能であることを示しており、今後この手法の有効性について検証を進めていきたい。参考文献岡谷隆基・佐藤浩・中埜貴元・小荒井衛(2012):ALOS/PALSAR 干渉画像による秋田県東成瀬地区地すべりのモニタリング,写真測量とリモートセンシング,Vol.51,No.2,pp.95-102小荒井衛・中埜貴元・佐藤浩・岡谷隆基・大丸裕武(2013):干渉SAR技術による大規模斜面変動の前兆把握の可能性,日本リモートセンシング学会第55回(平成25年度秋季)学術講演会論文集,41-42.佐藤浩・岡谷隆基・小荒井衛・鈴木啓・飛田幹男・矢来博司・関口辰夫(2012):SAR 干渉画像を用いた地すべり地表変動の検出について―山形県月山周辺を事例にして―,日本地すべり学会誌,Vol.49, No.2, pp.61-67.戸田堅一郎・大丸裕武・村上亘・小荒井衛・中埜貴元(2013):航空レーザ測量データを用いた深層崩壊危険斜面の効率的な検出手法の検討,中部森林学会2013 大会発表要旨集,24.中埜貴元・小荒井 衛・大丸裕武・三森利昭・岡田康彦・小川明穂(2013):SAR干渉画像で捉えた静岡市口坂本地区の地すべりの前兆変動(速報),日本地理学会2013年秋季学術大会発表要旨集,92.図1 坂巻温泉西方の干渉SAR画像(2008/07/20-2009/09/07)と現地確認した斜面変状