日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR23_1AM1] ヒト-環境系の時系列ダイナミクス

2014年5月1日(木) 09:00 〜 10:45 414 (4F)

コンビーナ:*宮内 崇裕(千葉大学大学院理学研究科地球生命圏科学専攻地球科学コース)、須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、吾妻 崇(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター)、小野 昭(明治大学黒曜石研究センター)、座長:宮内 崇裕(千葉大学大学院理学研究科地球生命圏科学専攻地球科学コース)、須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)

10:00 〜 10:15

[HQR23-05] 中部高地黒曜石原産地近傍に位置する長野県広原湿原周辺における先史人類の活動

*橋詰 潤1島田 和高2隅田 祥光1小野 昭1 (1.明治大学黒耀石研究センター、2.明治大学博物館)

キーワード:黒曜石原産地, 中部高地, 広原湿原, 広原遺跡群, 縄文時代, 後期旧石器時代

長野県小県郡長和町に所在する広原(ひろっぱら)湿原は,多数の黒曜石原産地が分布する霧ヶ峰地域の,和田峠原産地に近い標高1,400m 付近に位置する.広原湿原とその周辺では1989~1991年にかけ,黒曜石原産地と遺跡分布に関する詳細な分布調査が行われている.広原湿原では,採取された湿原堆積物から古環境復元が行われ,加えて周辺の陸域での試掘調査によって,旧石器時代?縄文時代の遺物包含地点が多数確認されている.こうした先行研究の成果を受け,明治大学黒耀石研究センターでは人類による黒曜石を中心とした資源利用と古環境変動との相関関係を考察可能なフィールドとして,2011年から新たな調査を開始した.当地では,湿原周辺における人類活動の復元を目指す考古学的な発掘調査と,湿原堆積物および周辺陸域でのサンプリングによる古環境復元を両輪として調査を進めているが,ここでは考古調査の成果を中心に概要を述べる.広原遺跡群広原湿原周辺の遺跡群は,1991年までに行われた試掘調査の成果と微地形の検討によって,第I~VIIの7 遺跡に区分され,それらを合わせて広原遺跡群と呼称している.このうち,第I,第II遺跡については2011年の試掘調査によって,後期旧石器時代~縄文時代の複数の時期にまたがる遺物包含層が確認されている.2012年と2013年の調査では,第I遺跡に第1調査区(EA-1)を,第II遺跡に第2調査区(EA-2)を設定し,発掘調査を行なっている.以下では,EA-1とEA-2それぞれの調査成果の概要について述べる.広原遺跡群広原第I遺跡調査区1(EA-1)EA-1では,地表下約2.6mまで調査を進め,7層までの堆積を確認している.1)無遺物層である5層は,AT に同定される径5~10cmの塊状のテフラを包含する.2)6層出土遺物はAT下位の後期旧石器時代前半(MIS3)に位置づけられる.3)MIS2に位置づけられる可能性のある4層は遺物の出土が希薄である.4)3層からはMIS2後半に位置づけ可能な石器形態である,尖頭器が出土している.3層以下はローム質土である.5)2層は一部旧石器時代の遺物を含むが,完新世初頭に位置づけ可能な縄文土器を有しており,黒色土となる.広原遺跡群広原第II遺跡調査区2(EA-2)EA-2では,地表下約3mまで調査を進め,10層までの堆積を確認している.1)5層以下は無遺物層である.2)4a層,4b層を中心にAT起源の火山ガラスが検出されている.3)4b層から,後期旧石器時代前半(MIS3)の指標的な石器器種である局部磨製石斧が出土しており.本遺跡での人類活動はこの時期にまでさかのぼる.4)4a層から4b層にかけ,「黒曜石集石」と名付けた大形の石器の集中出土地点が検出されており,ATとの関係や同層から局部磨製石斧が出土していることなどから,MIS3~ATの降灰期にかけての時期に,非常に集中的な活動が行われたと推定される.5)MIS2に位置づけ可能な3層は遺物が上下の層に比して少ない.3層までがローム質土である.6)2層は一部旧石器時代の遺物を含むが,完新世初頭に位置づけ可能な縄文土器を有し,黒色土となる.石器の出土量も多く,焼けた礫や土坑なども伴っており,ここでも濃密な人類活動の痕跡を確認することができる.成果と課題2011 年度からの3 次にわたる調査によって,広原湿原周辺での重層的な文化史編年の解明につながる遺物・遺構を検出することが出来た.その結果,広原湿原周辺では当初の予想を上回り,MIS3の後半の後期旧石器時代初頭から,完新世前半の縄文前期までの長期間にまたがり,かつ多様な活動の結果遺跡群が形成されたことが明らかとなった.また,その中には多数の原産地から持ち込まれたと想定される黒曜石や,石器製作やその他の多くの行動の結果残されたと想定される資料が含まれている.これらは,黒曜石原産地周辺における人類の行動の復元に資するものである.さらに,こうした重層的な活動痕跡の間には,当地における人類の活動がやや希薄であったと想定される時期も存在する.こうした先史人類の活動を,現在分析が進行中である古環境復元データと比較・統合することによって,黒曜石原産地周辺における人類行動の変遷と古環境との相関関係をより詳細に読み解いていくことが可能になると期待される.