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[HRE31-11] 人工水和物シール層下への二酸化炭素貯蔵
キーワード:人工シール層, 二酸化炭素回収貯留, 水和物シール, 伊豆大島, 大偏距掘削, 二酸化炭素/水エマルジョン
1989年、水深 1335 m 水温 3.8℃の沖縄トラフ海底面でSakai et al.(1990)が天然の二酸化炭素水和物(CO2水和物)を発見したことは、人為起源二酸化炭素の大気からの隔離法を模索しはじめていた当時の研究者たちに大きな刺激を与えた。日本列島の海岸から遠くない沖合は、とりわけ日本海側では約 300m 以深に「日本海固有水」があり、4.4 MPa以上 10℃以下というCO2水和物が分解しない安定条件にある。この条件に適する海底に対して海岸からの大偏距坑井で直接にアクセス可能な地点数も全国で十指にあまる(大隅, 2013)。Sakai らの観察例の場合、CO2水和物は海底面表層堆積物間隙中にも存在していると想定され、CO2•nH2Oの密度(n=7∼8でρ=1.07∼1.04 g cm-3)が底層水密度より大きいため、その厚さが薄くても、直下に存在するはずの液体二酸化炭素を主成分とする流体(ρ=0.92 g cm-3と推算される)の漏出に対しての有効なバリアとして機能する。 Koide et al. (1997) は、海底下の堆積物や岩石の間隙中で生成する可能性のあるCO2水和物は、下位の層準に存在する流体が間隙水や地層水よりも密度が低い場合、その上昇を妨げると指摘している。貯留CO2が上方へ移行して水和物 cap を生成するとした。これをうけて、CO2水和物で充填されたシール層を人為的に生成させることができるかの工学的検討例も多い。この際、高圧低温の安定条件でもCO2水和物が海底面に露出していれば溶解を免れない。しかし、大隅(2012)は、CO2水和物層上面から海底までに堆積層が厚さ1 m 程度もあれば、堆積物間隙水中のCO2(aq)溶質移行は濃度拡散過程が律速となり、CO2漏出流束が0.1 kg-CO2 m-2 y-1以下に抑えられるとしている。 伊豆大島東岸は、沖合海底斜面が相模トラフに急激に落ち込んでいて、最短距離 1.1 kmの沖合に440 mの等深線が迫っている。その水温は年間を通じて10℃を超えないため、CO2水和物の安定領域が海底面に広く分布する。海底下の地質は数十万年前の「古い火山体」であり、現在の伊豆大島火山の火山活動と同様の特徴を持つとすれば、玄武岩溶岩/火山砕屑物の互層であろう。水平方向に透水性の高い層を選んで層内間隙にCO2水和物を生成させてシール機能をもたせることができれば、より下位の地層内に液体CO2を貯蔵することが可能となる。池川ら(2012)は、CO2エマルジョン流体を地層内に圧入する方法を提案し、流路の閉塞を回避して坑井から地層内に遠方までCO2を送り込めることを示している。この方法でシール層を作成できれば、この地点での二酸化炭素貯蔵の可能性は魅力的である(付図参照)。 海岸線に沿う方向5 km×沖合方向1 kmの矩形の範囲において、海底下の有効層厚200 mについて有効孔隙率10%分の液体CO2貯蔵量を考えればCO2貯留ポテンシャル量は約1 億トンとなる。参考文献:池川洋二郎ほか (2012)電力中央研究所研究報告N11024;Koide et al. (1997) Energy 22(2/3) 279-283;大隅多加志 (2012) 二酸化炭素クラスレートの海底下埋設, 第23回海洋工学シンポジウム;大隅多加志 (2013)日本火山学会講演予稿集(2013年度秋季大会)152-154;Sakai et al. (1990) Science 248, 1093-1096.