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[HTT34-08] 写真情報を用いた大名庭園の景観分析
キーワード:大名庭園, 景観, 写真情報
わが国の人々は,古くからシークエンス景観に対して興趣を感じてきた.室町時代の禅宗寺院や江戸時代の大名庭園に実例が存在している.一方,近年では情報技術,とりわけソーシャルメディアが目覚しく発展している.それにより,観光地で体験された景観が撮影され,私的な時空間情報として非構造化された状態でインターネット上に蓄積されている.そこで本研究では,インターネット上に蓄積している私的な時空間情報を活用し,大名庭園における景観現象を分析する.具体的には,対象地で撮影された写真画像と時空間情報を取得し,GIS(Geographic Information System)を用いて時間・空間の両面に着目し分析を行う.まず,現在でも多くの観光客が訪れる大名庭園の中から研究対象地を選定する.つぎに,写真コミュニティサイトの一つであるFlickrに着目し,それぞれの対象地で撮影された時空間情報を含む私的な写真情報を取得しデータベースを構築する.構築したデータベースを時間別や個人別などに分類し分析を行うことで,対象地を訪れた人々が実際に体験した景観現象の把握を行う.数ある大名庭園のなかでも,偕楽園,兼六園,後楽園は日本の代表的な庭園として日本三名園と称されている.くわえて栗林公園もこれに劣らず美しい庭園と記されている.さらにこの4庭園は,現在でも多くの観光客が訪れる観光名所として存在している.そこでまず,この4庭園を対象に,flickr APIを用いて実際に現地を訪れた人びとが撮影した写真画像とそれに付随する時空間情報の収集を行った.なお今回は2006年1月1日から2012年12月31日の期間に撮影された写真情報を収集している.その結果,情報量の観点から兼六園を分析の対象地に選定した.まず,写真画像データに含まれるExif(Exchangeable image file format)情報の活用を行う.このメタデータは,写真を撮影した際のカメラ本体の情報が取りまとめられており,絞り値や焦点距離などさまざまな情報が写真撮影位置とともに記録されている.つまり,撮影時の状況を記録した指標といえる.今回は数あるExif情報の中でも,焦点距離と撮影方向を用いて兼六園の視覚的特徴を把握する.それぞれの位置情報をもとに,35mmフィルム換算焦点距離をGIS上に展開した.それぞれのデータは,焦点距離の値ごとに色分けをして表示されている.これにより,庭園内の特徴を把握することができた.一つは,梅林周辺のように画角範囲が狭く,固定的な眺められ方が生じているエリアである.とくにここは梅林であることから,梅のつぼみや花を注視していることが予測される結果となった.二つ目は徽軫灯籠周辺である.ここでは,画角範囲が広く,複数の焦点距離を用いて写真撮影が行われていることが分かる.つぎに,収集した写真画像に着目した分析を行う.一つの対象に対して,撮影位置は固定的ではなく,多様な分布を示す.そこで,分布指向性分析を行うことでそれぞれの視点場を把握する.分布指向性分析では,点群の分布をもとに標準偏差楕円を作成し中心傾向,分散,指向性傾向といった空間特性を把握することができる.今回分析に用いる点群は写真撮影位置であるため,分析により生成される標準偏差楕円を撮影視点場として考える.まず,撮影対象ごとに写真を分類し,対象ごとに撮影視点場を作成した.その結果,庭園を巡るなかで複数の視点場が重なる場所(徽軫灯籠周辺など)が存在することが明らかになった.庭園を巡るシークエンスの中で,順番に対象を見ていくのではなく,地物が複雑に影響しながら視覚されていることが考えられる.また,個別に視点場と対象の関係性をみていくと,標準偏差楕円の形状と撮影対象との位置関係から,いくつかの特徴を見出した.そこで,分析結果をもとに撮影視点場を分類し,4つの異なる特徴を持つ視点場を把握した.これにより,視点場内で生じる微細な時間での景観現象をおおまかに把握することができ,またそれらはカメラワークの表現と類似していることを明らかにした.本研究の結果,Exif情報を用いて対象地の視覚的特徴を把握した.くわえて撮影対象ごとの視点場を把握し,視点場のモデル化を行うことができた.