日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT35_1AM2] 地球人間圏科学研究のための加速器質量分析技術の革新と応用

2014年5月1日(木) 11:00 〜 12:45 311 (3F)

コンビーナ:*中村 俊夫(名古屋大学年代測定総合研究センター)、松崎 浩之(東京大学大学院工学系研究科)、笹 公和(筑波大学数理物質系)、永井 尚生(日本大学文理学部)、南 雅代(名古屋大学年代測定総合研究センター)、座長:中村 俊夫(名古屋大学年代測定総合研究センター)

11:30 〜 11:45

[HTT35-10] WHP再観測によって明らかになった太平洋における核実験起源炭素14の十数年規模変動

*熊本 雄一郎1村田 昌彦1河野 健1 (1.独立行政法人海洋研究開発機構)

キーワード:核実験起源炭素14, 太平洋, 海洋循環

核実験によって大気中に放出された炭素14(核実験起源炭素14)が、どのように海洋に移行しているかを明らかにすることは、大気・海洋間の気体交換および海洋循環を研究するための有力な方法のひとつである。JAMSTECは、2000年代以降主に太平洋域においてWHP(WOCE Hydrographic Program)の再観測を精力的に実施し、海水中炭素14濃度を分析してきた。それらをWHP等の過去に観測されたデータと比較することで、太平洋における1990年代から2000年代にかけての十数年間の核実験起源炭素14の変動が明らかになった。2000年代に得られた炭素14の観測結果を、主に1990年代のWHPの観測結果を比較した結果、以下のことが明らかになった。(1)北太平洋亜寒帯域:鉛直分布、鉛直積算量ともに大きな変動なし、(2)北太平洋東部亜熱帯域:深度約500-mまでは減少、500から1500-m付近までは増加しており、鉛直積算量は大きな変化なし、(3)北太平洋西部亜熱帯域:深度約500-mまでは減少、鉛直積算量は約20%減少、(4)熱帯域:鉛直分布、鉛直積算量ともに大きな変動なし、(5)南太平洋亜熱帯域:深度約500-mまでは減少、500から1500-m付近までは増加しており、鉛直積算量は大きな変化なし。北太平洋東部亜熱帯は比較する2000年代のデータが少ないが、米国が実施した同海域における炭素14の再観測の結果からも、上記(2)と似たような結果が報告されている。南太平洋の亜寒帯域での再観測データがないため、太平洋全域における1990年代から2000年代にかけての炭素14のインベントリーの時間変化ははっきりしない。一方、北太平洋に限れば同西部亜熱帯における有意な減少によって、同海域のインベントリーは減少していることがわかった。この時間変動は、主に大気から海洋に移行した核実験由来炭素14の時間変動に起因するものと考えられる。海水中の炭素14の大部分は溶存無機炭素として海水中に存在するため、核実験起源炭素14は海洋表層(サーモクライン)循環によって運ばれる。一方で、大気中の核実験起源炭素14濃度は年々減少している。ソースである大気中濃度の減少シグナルが西部亜熱帯域で最も早く観測されたことは、同海域におけるサーモクライン循環の時間スケールが相対的に短いことを示唆している。また、北太平洋から失われた核実験起源炭素14は、インドネシア通過流によって北太平洋からインド洋への移行した可能性がある。なお本研究成果の一部は、(独)日本学術振興会科学研究費補助金18310017、および日本原子力研究開発機構の施設供用制度(課題番号:2007A-F03, 2007B-F05, 2008A-F02, 2009A-F05, 2010A-F06, 2011A-F04)によって得られたものである。