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[MAG38-11] 福島第一原発の北西地域における表層土壌の放射能比による3つの区分
キーワード:福島第一原子力発電所事故, 110m-Ag/137Cs比, 表層土壌
福島第一原子力発電所事故によって福島県とその周辺地域では放射性核種による大規模な汚染が発生した.土地の汚染は原発の北西方向に集中していることが、事故初期のおける文部科学省の航空モニタリングと土壌採取調査の結果から明らかになっている.しかしながら福島第一原発事故では汚染源となった原子炉が3つもあるだけでなく、時期も複数回に及ぶため、地域ごとの汚染時期は空間線量変移等を取り入れたシミュレーションによって、再構築が試みられているものの、全容解明は行われている最中である.一方、文科省の土壌調査の結果から原発の北西方向にある高汚染地域は110mAg/137Cs比を用いると2つに分けることが可能である.110mAgは核分裂によって生成する核種であり、半減期も約250日と長いため、汚染源の推定のみならず、輸送過程の推定が期待できる.そこで本研究では福島第一原子力発電所の北西方向を行政区とする双葉郡浪江町において40地点余の表層土壌の採取を行い、110mAg/137Cs比を用い北西方向の放射性核種による汚染の実態解明を試みた. 本研究で対象とした放射性核種は137Cs、134Cs、および110mAgの3核種で、原子炉が緊急停止した2011年3月11日に壊変補正した.採取土壌の測定結果と文科省による北西方向の公表値を組み合わせると、110mAg/137Cs比において3つの地域に分かれた.最も北側に属する地域は110mAg/137Cs比が0.02、134Cs/137Cs比が0.92で、範囲も原発から15 kmの範囲であり極めて限定的であった.一方、110mAg/137Cs比が0.005と0.002の地点はいずれの134Cs/137Cs比も0.98で、これらの地域は原発から北西方向に伸び、それぞれが原発から60 km離れた福島市付近まで到達していた. ORIGENコードを用いた炉内燃料状態のシミュレーション結果によると、3月11日時点で1号機の110mAg/137Cs比と134Cs/137Cs比がそれぞれ0.02と0.94で最も北側地域の値におおよそ一致した.一方、110mAg/137Cs比が0.005と0.0002を示した地域は134Cs/137Cs比から2、3号機由来と推定される.しかしながら2,3号機のシミュレーション結果を基にすると110mAg/137Cs比は1/5-1/10程度しか観測されていない.政府事故調査委員会の発表では2、3号機からの放出が始まったのは14日以降である.銀の沸点はセシウムに比べ高く、地震発生から丸3日以上が経過し、1号機が放出した時に比べ炉心の冷却が進み、結果的に沸点が低いセシウムが主として放出されたと考えられる.