日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG38_2PM1] 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態

2014年5月2日(金) 14:15 〜 16:00 501 (5F)

コンビーナ:*北 和之(茨城大学理学部)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、中島 映至(東京大学大気海洋研究所)、五十嵐 康人(気象研究所 環境・応用気象研究部)、松本 淳(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境科学専攻)、山田 正俊(弘前大学被ばく医療総合研究所)、竹中 千里(名古屋大学大学院生命農学研究科)、山本 政儀(金沢大学環低レベル放射能実験施設)、神田 穣太(東京海洋大学)、篠原 厚(大阪大学)、座長:長尾 誠也(金沢大学環日本海域環境研究センター)

14:45 〜 15:00

[MAG38-17] 侵食に伴う放射性セシウム移行の経験モデルと沈着量および河川への流出量の将来予測

*近藤 昭彦1恩田 裕一2 (1.千葉大学環境リモートセンシング研究センター、2.筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

キーワード:USLE, 侵食量, 放射性セシウム, 沈着量変化, 分布型モデル, 福島

平成23年3月に発生した東電福島第一原発の事故により環境中に放出された放射性物質は東日本の広範囲に拡散し、地表面近傍に沈着した。大量の放射性物質が沈着した阿武隈山地は低地の居住地、農耕地以外は大半が森林に被覆されている。放射性物質の移行は山地森林流域における水循環・物質循環とともに生起し、再配分が進行していくと考えられる。今後長期間にわたり放射性物質の分布と時間変化に対するモニタリングが必要であるが、同時に放射性物質の挙動を予測し、放射能対策に役立てる必要がある。本研究では分布型の侵食モデルと、侵食土砂の斜面下方への輸送モデルを構築し、放射性セシウム(ここではセシウム137を扱う)の沈着量の長期変化を予測することを目的とする。 分布型モデルの空間分解能は文部科学省から提供を受けた航空機モニタリングによる放射性セシウム沈着量データの分解能に合わせて25mとした。計算範囲は阿武隈川を含む東電福島第一原発80km圏に含まれる36の流域の範囲とし、広域侵食量分布を計算し、侵食、運搬に伴う放射性セシウムの沈着量分布の経年変化、河川を通したセシウム輸送量を予測した。 侵食量を予測するUSLE(Universal Soil Loss Equation)モデルの各項は、福島県川俣町山木屋地区に設置されたUSLEプロットにおける観測から導出された土地被覆ごとのUSLE式を使用し、グリッドごとに計算することにより、侵食量分布を求めた。 USLEモデルの入力として使う土地被覆は環境省による自然環境保全基礎調査成果である第2回~第5回植生調査集約シェープファイルを使用し、25m分解能のラスターデータに変換して用いた。地形は国土地理院による10mDEMを25m分解能にリサンプリングし、傾斜等の地形パラメータを求めた。植被率は2011年の雲補正が施されたMODIS/NDVIデータ(東京情報大学受信)を用いたが、250m分解能を25m分解能にリサンプリングする際に、土地被覆データを利用して、土地被覆とNDVI値の対応関係を修正した。 次に地形勾配に沿う侵食土砂の移動を予測する移行モデルを構築し、平成23(2011)年から平成53(2041)年までの30年間の土砂移動に伴うセシウムの沈着量の分布の変化の計算を行った。 分布型USLEモデルで計算された侵食土砂は落水線に沿って斜面下方に運搬されると仮定し、時間ステップ⊿Tを1年として、グリッドごとに生産された土砂(侵食量)を下流側グリッドに移動させた。その際、⊿Tの間に下流側に移動する土砂量と侵食土砂量の比としてSDR(Sediment Delivery Ratio)を設定した。SDRは最大値が1であるが、その値は経験的に決定する必要がある。現状では日本における値は不明であるが、SDR=1を設定することにより土砂移動の最大値を計算した。 運搬される土砂に含まれるセシウムの濃度は沈着量(Bq/m2)と流出(侵食)土砂のセシウム濃度(Bq/kg)との比(Sc)をUSLEプロットにおける観測により土地利用項目ごとに求め、沈着量に掛けることにより求めた。 斜面を移動する土砂は崩壊が生じない限り、急速に移動することはまれである。しかし、斜面基部、谷底の飽和帯が発生しやすい領域に土砂が到達すると出水時に侵食され、下流に運搬される。そこで、DEMからTPI(地形指数)を求め、飽和帯発生域(流出寄与域)を特定し、この領域に土砂が到達すると一定量が水流によって取り除かれるアルゴリズムとした。今回は河道近傍に到達したセシウムの100%が河川に流出するとして計算を行った。現実には河道内における滞留時間を考慮しなければならないため、セシウム流出量の最大値を計算していることになる。 計算の結果、侵食、斜面移動、水系からの運搬を考慮した放射性セシウムの沈着量分布は、放射壊変のみを考慮した沈着量分布と比較すると最大で10%程小さくなった。河川からの放射性セシウム流出量に関しては、観測点が流域下流端の岩沼地点にある阿武隈川では初年度の実測値と計算値がどちらも10^13Bqのオーダーで一致した。各河川流域からの放射性セシウム流出量は初期の1~数年で急激に減少するが、その後は指数関数的に減少した。30年後でも放射性セシウム流出量は上流に高濃度地域を含む新田川、請戸川では10^9Bq程度、流域面積が大きい阿武隈川では10^10Bq程度の値となった。 本研究結果は経験モデルによる計算結果であり、モデルの精度は観測情報の蓄積とともに再検討していく必要があるが、流出・土砂移動のメカニズムに基づいた経験モデルであるため、放射性セシウム移行の一端を表していると考えられる。