日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21_28PM1] 生物地球化学

2014年4月28日(月) 14:15 〜 16:00 511 (5F)

コンビーナ:*楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:陀安 一郎(京都大学生態学研究センター)、岩田 智也(山梨大学生命環境学部)、和穎 朗太(農業環境技術研究所 物質循環研究領域)、仁科 一哉(国立環境研究所)

15:30 〜 15:45

[MIS21-17] 湖沼の好気環境に出現するメタン極大の形成プロセス

*岩田 智也1小林 あい1内藤 あずさ1小島 久弥2 (1.山梨大学、2.北海道大学)

キーワード:好気的メタン生成, シアノバクテリア, シネココッカス, メチルホスホン酸, リン欠湖沼

湖沼から大気へのメタン放出量は,全球規模のメタン収支に大きく影響している.従来,湖沼から放出されるメタンは湖底付近の嫌気環境で生成したものと考えられてきた.しかし,我々は多くの湖沼において好気環境にメタン極大が出現することを明らかにしている.このメタン極大の形成プロセスには,強いリン律速下における微生物の有機リン代謝が関与している可能性が考えられる(Karl et al. 2008).しかし, 好気的メタン生成の機構とそれに関与する微生物は未だ明らかとはなっていない.そこで本研究では,制限栄養元素,代謝および基質が好気的メタン生成に及ぼす影響をバッチ培養により明らかにするとともに,浮遊性細菌群集の鉛直分布をCARD-FISH法により定量化して溶存メタン濃度の季節変化との対応関係を評価する。これにより,湖における好気的メタン生成に関与する微生物と代謝プロセスを特定することを目的とする.調査は,山梨県西湖にて行った.2013年3月-12月に湖内の4地点において定期的に採水を行い,湖内における溶存メタン濃度の鉛直・水平分布とその季節変化を調査した。また,好気的メタン極大が出現した7月には水深7.5 mから湖水を採取し,メタン生成過程を明らかにするための室内培養実験を行った.実験1ではDINおよびDIPが好気的メタン生成に及ぼす影響を,実験2では各種阻害剤(BES, DFM, 遮光)がメタン生成速度に及ぼす影響,実験3では有機リン化合物であるメチルホスホン酸(MPn)がメタン生成速度に及ぼす影響を評価した.各実験とも4-5日間のバッチ培養を行い,処理区間でメタン生成速度を比較することで,制限栄養元素濃度や微生物代謝およびホスホン酸の有無が好気的メタン生成に及ぼす影響を評価した。また,CARD-FISHでは,3月,5月,7月および10月に採水した湖水試料に4つのプローブ(EUB338,CYA361,Mg84+Mg705,405_Syn)をハイブリダイズさせ,浮遊性細菌群集の分布を定量化した.野外調査の結果から,西湖では夏期において水温躍層近傍に巨大なメタン極大が出現することが明らかとなった。また,このメタン極大周辺では溶存酸素濃度も上昇していた。湖底や沿岸帯,大気からメタンが供給された痕跡はなく,現場にて好気性生物によりメタンが生成しているものと考えられた。培養実験では,栄養塩を添加した実験1および阻害剤を添加した実験2ともに,全ての処理区でメタン生成は確認されなかった.一方,ホスホン酸を添加した実験3ではMPnの添加によりメタン濃度が大きく上昇した.この結果は,C-Pリアーゼによりホスホン酸のC-P結合が開裂し,メタンが生成していることを示唆している.C-Pリアーゼ遺伝子はシアノバクテリアなどの様々な微生物が有しており(Karl et al. 2008),基質であるMPnは一部の浮遊性古細菌によって合成されることも発見されている(Metcalf et al. 2012).このことから,湖沼の好気環境に出現するメタン極大も,C-Pリアーゼを有する微生物のMPn代謝によって形成されていると考えられた.次に浮遊性細菌群集の鉛直分布を見ると,シアノバクテリア(CYA361)やSynechococcus(405_Syn)の細胞密度の鉛直分布が,メタン濃度の鉛直プロファイルに一致していた.また,CYA361と405_Synの季節変化はメタン濃度の季節消長によく一致しており,シアノバクテリアのなかでもC-Pリアーゼを有するSynechococcusが好気的メタン生成に関与している可能性がきわめて高いと考えられた。本研究結果から,湖沼の好気環境におけるメタン生成には微生物によるMPn分解が関与していると考えられた.とくに,海洋ではシアノバクテリアのMPn代謝によってメタンが生成することが報告されており(Karl et al. 2008),CARD-FISHによるCYA361や405_Synの鉛直分布の結果もその可能性を支持している.湖沼においてもシアノバクテリアの有機リン代謝がメタン極大の形成に大きく関わっているものと考えられる.