日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21_28PM2] 生物地球化学

2014年4月28日(月) 16:15 〜 18:00 511 (5F)

コンビーナ:*楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:和穎 朗太(農業環境技術研究所 物質循環研究領域)、仁科 一哉(国立環境研究所)、稲垣 善之(森林総合研究所)、藤井 一至(森林総合研究所)

17:45 〜 18:00

[MIS21-25] ヒノキ林における樹冠葉量と窒素吸収量の推定

*稲垣 善之1酒井 敦1宮本 和樹1 (1.森林総合研究所)

キーワード:ヒノキ, 葉量, 幹, 窒素, 林齢

森林生態系において窒素吸収量は、リターフォールの窒素量と地上部現存量増加分に存在する窒素量を加えて算出する。リターフォールは、リタートラップによって、幹現存量の増加は直径と樹高の測定によって比較的精度よく推定することができる。しかし、これまで樹冠葉量を精度よく推定することが困難であった。直径と樹高から樹冠葉量を推定する方法が多く用いられるが、閉鎖林分における枝の枯れ上りを考慮することができない点が問題であった。一方、既往の研究で樹冠の生枝下高における幹断面積と樹冠葉量は、森林の管理状態に関わらず高い相関関係を示すことが知られているが、生枝下高における幹直径の計測は困難であった。近年、これらの問題点を解決するために、生枝下断面積を樹高、生枝下高、胸高直径から簡易に推定する手法が提案された。この方法で様々な生態系における葉量を精度よく推定することが期待されるが、その有効性は日本の代表的な造林樹種であるヒノキについては明らかでない。本研究では、この簡易手法を高知県の2地域のヒノキ林における伐倒調査の結果に当てはめ、有効性を明らかにするとともに、得られた関係式を長期にわたって幹成長を観測している高知県のヒノキ林分に当てはめて、林齢の変化に伴う葉量と窒素吸収量の変化を明らかにすることを目的とする。樹冠葉量と樹高、生枝下高、胸高直径の関係を明らかにするために、高知県の標高の異なる2つの地域において調査を行った。サイズの異なるヒノキを合計で14個体伐採し葉量を計測した。葉量(Wleaf)は、樹高(H)、生枝下高(Hb)、胸高断面積(A1.3)と次の式によって近似することができた。Wleaf=1.02[0.0364×AB^1.10] (r2=0.926, p<0.0001)ここでAB=A1.3[ (H-Hb) / (H-1.3) ]を示す。2つの地域で回帰式に有意な差は認められず、標高の異なる林分でも同一の式で葉量を推定することが可能であった。高知県のヒノキ林分において、同一林分を20年間観測し、林齢の変化に伴う窒素吸収量と葉、幹生産の関係を明らかにした。21年生から41年生における7つの時期(21-22、23-24、 25-27、28-30、31-32、39-41年生)において、樹冠葉量を求めた。樹冠葉量は、前述の関係式によって算出した。胸高直径と樹高から幹現存量を求めた。リタートラップで計測した落葉量に樹冠葉量の増分を加えて葉生産量とした。落葉窒素量、樹冠窒素の増分、幹成長の窒素増分を合計したものを窒素吸収量とした。葉と幹生産量の合計を窒素吸収量で割って窒素利用効率を算出した。葉量、葉生産量、幹生産量、窒素吸収量、窒素利用効率と林齢には有意な相関関係は認められなかった。窒素吸収量が大きいほど、葉生産量は大きく、樹冠葉量が大きい傾向が認められたが、幹生産量には有意な相関は認められなかった。窒素吸収量が大きいほど窒素利用効率が低い傾向が認められた。以上の結果より、本研究でヒノキ林分における樹冠葉量の変動を精度よく推定することができた。ヒノキの窒素利用様式は林齢に伴う明瞭な変動を示さないが、ヒノキは窒素吸収量の少ない時期には窒素を効率的に利用して幹生産を維持することが示唆された。