日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23_2AM1] 津波堆積物

2014年5月2日(金) 09:00 〜 10:45 415 (4F)

コンビーナ:*後藤 和久(東北大学災害科学国際研究所)、宍倉 正展(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)、西村 裕一(北海道大学大学院理学研究院)、座長:後藤 和久(東北大学災害科学国際研究所)

09:00 〜 09:15

[MIS23-01] 2011年東北沖津波により陸上に堆積した海洋生物起源バイオマーカー

*篠崎 鉄哉1藤野 滋弘2池原 実3澤井 祐紀4田村 享4後藤 和久5菅原 大助5阿部 朋弥6 (1.筑波大学大学院生命環境科学研究科、2.筑波大学生命環境系、3.高知大学海洋コア総合研究センター、4.産業技術総合研究所地質調査総合センター、5.東北大学災害科学国際研究所、6.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:バイオマーカー, 炭化水素, 津波堆積物, 2011年東北沖津波

過去に発生した津波の解析には,津波により形成された堆積物(津波堆積物),主に砂質堆積物が用いられている.地層中から砂質の津波堆積物を識別する際,層厚や粒度の変化,砂層の分布や海棲生物の存在の有無などが根拠となる.しかしながら,こうした特徴が必ずしも地層中に残るわけではなく,津波堆積物かどうかの識別が困難な場合がある.そのような堆積物であっても,海水の痕跡が検出できれば堆積物が海水の流れにより形成されたことを示す証拠となる.本研究では,海水浸入の痕跡を示す指標としてバイオマーカーに着目した.バイオマーカーは生物によってのみ生成される炭素骨格をもつ有機分子であり,陸域の生物と海水中の生物とで生成される炭素骨格が異なる.津波による陸域への浸水があった場合,陸上に通常存在しないはずの海洋生物起源のバイオマーカーが堆積する可能性が考えられる.また,バイオマーカーは長期間安定で地層中に保存されることが確認されており,先史時代のイベントの指標としても期待できる.本研究では,津波による海洋生物起源バイオマーカーの堆積状況に関する検討を,2011年東北沖津波の浸水域で採取した堆積物を用いて行った.試料採取地域は宮城県仙台市若林区荒浜および福島県南相馬市小高区の2地点で,2011年の津波堆積物砂層及びその下位の土壌に対して,炭化水素,アルケノン,ステロール,脂肪酸といったバイオマーカーの分析を行った.仙台では,2013年3月に海岸線から約1.6 kmの地点でハンディジオスライサーにより掘削した試料の表層12 cmを用いた.深度0-3 cmが津波により堆積した細粒砂層で,下位の耕作土層を覆う.砂層で1点(深度1-3 cm),深度3-9 cmの耕作土層で1 cmごとに6点の,計7点でバイオマーカーの測定を行った結果,深度5-6 cmの耕作土層でのみ海洋生物起源の短鎖n-アルカンが検出された.これは,砂層が透水層であるため海水が土壌中に浸透し,深度5-6 cmに海洋生物起源の有機分子が集積した可能性が考えられる.小高では,2013年10月に海岸線から約1.8 kmの地点でハンディジオスライサーにより掘削した試料の表層35 cmを用いた.深度8-15 cmおよび18-20 cmが津波による細粒から中粒砂層で,間の深度15-18 cmにはおそらく第1波で形成されたであるマッドドレープが観察された.深度5-23 cmの間で計12点のバイオマーカー分析を行ったところ,深度18-20 cmの砂層の直下である深度20-21 cmの耕作土層でのみ海洋生物起源の短鎖n-アルカン,フィタン,プリスタンが検出された.仙台,小高の両地点とも,海洋生物起源のバイオマーカー,特に炭化水素が津波堆積物直下の土壌層に集積することがわかった.これらのバイオマーカーが津波により堆積したと仮定すると,地理的に離れた2地点からの検出は,バイオマーカーの堆積が地形や海洋環境などの違いに依存する特異的なものではなく,津波の浸水域に普遍的に起こる現象であることを示している.また,分析に用いた試料は津波発生後2年以上経過してから採取したものであり,海洋生物起源のバイオマーカーが少なくとも2年間は地層中に保存されることが分かる.以上より,バイオマーカーは過去の津波浸水履歴の評価に有効な指標であることが支持される.今後は,さらに他地域にも同様の分析を駆使しケーススタディを増やすとともに,古津波堆積物においても同様の手法が有効であるか検討を行う.