日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS24_28PM1] 地球流体力学:地球惑星現象への分野横断的アプローチ

2014年4月28日(月) 14:15 〜 16:00 313 (3F)

コンビーナ:*伊賀 啓太(東京大学大気海洋研究所)、中島 健介(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、柳澤 孝寿(海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)、相木 秀則(海洋研究開発機構)、座長:中島 健介(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

14:30 〜 14:45

[MIS24-05] 理想化した熱帯低気圧における多重壁雲の構造と壁雲の置き換わりの関係

*辻野 智紀1坪木 和久1 (1.名古屋大学地球水循環研究センター)

キーワード:熱帯低気圧, 多重壁雲, 壁雲の置き換わり, 渦力学

台風をはじめとする熱帯低気圧には, 中心からおよそ数百 km 以内に壁雲とよばれる対流活動の盛んな円形の雲域が存在する. 熱帯低気圧はまれに, この壁雲を同心円状に複数有することがあり, 多重壁雲(Concentric Eyewall)と呼ばれる. 多重壁雲は一度形成されると, 内側の壁雲がゆっくりと減衰し, 外側の壁雲が徐々に内側に収縮するという壁雲の置き換わり (Replacement) が起こる (Houze et al., 2006). 2012 年の台風 15 号 (Bolaven) は多重壁雲が形成されてから少なくとも 1 日以上維持しており, 明瞭な壁雲の置き換わりは見られなかった (辻野・坪木, 2013 年大会). 辻野・坪木 (2013; 気象学会秋季大会) では, Bolaven の外側壁雲が長時間維持と, 多重壁雲の鉛直構造が関係していると考察した. 彼らは, 外側壁雲が内側壁雲に比べて外向きに傾いていたため, 鉛直風について内側壁雲より外側壁雲の強さが相対的に弱く, 境界層を通過する内向きの流れが外側壁雲で捕捉されずに, 絶えず内側壁雲に水蒸気を供給していたことに起因することを示唆した. このように, 多重壁雲が形成されたとしても, 必ず壁雲の置き換わりが起こるとは限らず, 多重壁雲と壁雲の置き換わりの間にどのような関係があるかという点については完全には解明されていない. 本研究では, 辻野・坪木 (2013, 日本気象学会秋季大会) における台風 Bolaven (2012) の再現実験といくつかの解析で示された, 多重壁雲の構造と壁雲の置き換わりに注目する. まず, 3 次元非静力学モデルを用いて理想化した熱帯低気圧における多重壁雲の構造に関するパラメータスイープ実験を行う. そして, 各実験における多重壁雲の構造の違いと壁雲の置き換わりの関係について調べる.本研究では, 名古屋大学地球水循環研究センターで開発された 3 次元非静力学モデル (CReSS; Cloud Resolving Storm Simulator, Tsuboki and Sakakibara, 2007) を用いた. Terwey and Montgomery (2008; 以降 TM08) における多重壁雲の理想化実験を参考に初期値を作成した. 具体的には, 傾度風バランス, 静力学バランスした低気圧性回転の軸対称な風の場を初期渦とした (TM08 の (2,3) 式). 熱力学場については Jordan (1958; 以降 J58) で得られた熱力学場の鉛直 1 次元データを用いた. 水平解像度は 2 km, 鉛直方向には 45 層をとり, 最下層の鉛直解像度は 100 m をとった. 計算領域は 2000 km x 2000 km x 22.5 km をとった. 積分時間は 500 時間まで行った. 海面水温は各実験全て固定値を用いた. 本研究では, 多重壁雲の構造についてパラメータスイープ実験を行う際, TM08 で提唱されている考え方を元に, 多重壁雲の構造が接線風の動径方向の分布で変化すると仮定した. この接線風の動径分布は熱帯低気圧の最大接線風速 (最大強度) で変化すると考えられる. そこで, 最大強度を変化させるパラメータ (海面水温と大気の不安定性) に関して 4 つの数値実験を行った. それぞれ, SST を 301 K, 初期の鉛直温度分布に J58 を用いた実験をコントロール実験 (CTL), SST のみを 302 K にした実験 (S302), SST を 302 K, J58 で観測された温度を鉛直方向に一様に 3 K 増加させた実験 (ST302), SST を 300 K, J58 で観測された温度を一様に 1 K 増加させた実験 (ST300) として計算を行った.本研究では壁雲の定義としてモデルの高度約 5 km における接線平均された鉛直風の水平分布を用いた. CTL, S302 実験は積分開始 400 時間程度で複数回の多重壁雲形成と壁雲の置き換わりを経験している. 一方, ST302 では積分開始 250 時間付近で多重壁雲が形成されたが明瞭な置き換わりが見られなかった. ST300 では多重壁雲を形成しなかった. それぞれの実験について, 壁雲の鉛直方向の構造を調べた. 壁雲の置き換わりが見られた CTL, S302 では外側壁雲のの鉛直方向の傾きが内側壁雲と同程度であった. 一方, 壁雲の置き換わりが見られなかった ST302 では外側壁雲の傾きが内側壁雲よりも外側に傾いているということがわかった. 鉛直風の強さに着目すると, CTL, S302 では置き換わりの際に鉛直風が非常に強くなり, 内側壁雲と外側壁雲で同程度の強さとなった. ST302 では, 外側壁雲の鉛直風は内側壁雲に比べて非常に弱い結果となった. ST302 における多重壁雲の構造は辻野・坪木 (2013; 気象学会秋季) で示された Bolaven の構造と類似しており, Bolaven と同様に明瞭な壁雲の置き換わりが発生しなかった. これらの理想化実験の結果と多重壁雲の構造から, 壁雲の置き換わりには壁雲の鉛直方向の傾きが関係していると考えられる.