日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS27_2PM1] 海底マンガン鉱床の生成・環境・起源

2014年5月2日(金) 14:15 〜 16:00 423 (4F)

コンビーナ:*臼井 朗(高知大学自然科学系理学部門)、高橋 嘉夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、伊藤 孝(茨城大学教育学部)、鈴木 勝彦(独立行政法人海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域)、座長:臼井 朗(高知大学自然科学系理学部門)

14:45 〜 15:00

[MIS27-03] 海底鉄マンガン酸化物に記録された海水の鉄同位体組成

*山岡 香子1ボロック デイビッド2臼井 朗3 (1.産総研地質情報、2.ルイジアナ大学、3.高知大学理学部)

キーワード:鉄同位体, マンガンクラスト

鉄は,地殻中で4番目に多く存在する元素であるが,現在の酸化的海洋では速やかに酸化され沈殿するため、海水中の溶存鉄は一次生産を規定する要因となっている.鉄同位体比は10年ほど前から高精度分析が可能となり,海洋における鉄の生物地球化学サイクルを明らかにするための優れたツールとなりうる.海底鉄マンガン酸化物は,海水の鉄同位体比を反映していることが期待され,これまでにマンガンクラスト及びノジュールの表層分析や,時系列分析がなされてきた(Zhu et al., 2000; Levasseur et al., 2004; Chu et al., 2006).しかし,沈殿プロセスにおける同位体分別や続成作用の影響など,鉄マンガン酸化物の鉄同位体比を決定する因子についての基本的な理解は不十分であり,系統的な試料を用いた検証が必要である.本研究では,北西太平洋及びハワイ沖の水深約1400〜6000 mから採取された10の海水起源マンガンクラスト及びノジュール,5の続成起源マンガンノジュール表層の鉄同位体分析を行った.さらに,拓洋第五海山の3つの水深(1440, 2239, 2987 m)から採取されたマンガンクラストの時系列分析を行い,過去約20 Maの鉄同位体比変動を明らかにすることを試みた.測定はテキサス大学エルパソ校のMC-ICP-MSを用いて行い,分析誤差はδ56Fe値で±0.09‰ (2SD)である.海水起源マンガンクラスト及びノジュールのδ56Fe値は-0.44〜-0.22‰で,平均-0.32±0.12‰ (2SD)の狭い範囲に収まり,海域や水深による違いは見られなかった.さらに,続成起源マンガンノジュールのδ56Fe値も-0.34〜-0.20‰と,海水起源と比べて違いは認められなかった.このことは,太平洋の広い範囲において中深層水の鉄同位体比は一定であり,続成作用によっても鉄マンガン酸化物の鉄同位体比は変化しないことを示唆する.海水中溶存鉄の鉄同位体比に関する研究は少ないが,中央赤道太平洋の表層約900 mでは+0.01〜+0.58±0.08‰で,深度に沿って低下する傾向が報告されている(Radic et al., 2011).海底鉄マンガン酸化物の鉄同位体比はこれらの値よりも明らかに低く,中深層水の鉄同位体比は表層に比べて軽い鉄同位体に富んでいる可能性がある.拓洋第五海山マンガンクラストの時系列分析からは,3つの水深で違いは見られず,年代を通じてほぼ一定(δ56Fe = -0.31±0.13‰, 2SD)という結果が得られた.この値は,マンガンクラスト及びノジュールの表層から得られた値と一致する.さらに,中央太平洋の水深約3000 mから採取されたマンガンクラストからも,過去10 Maを通じて一定の鉄同位体比 (δ56Fe = -0.31±0.10‰, 2SD)が得られており(Chu et al., 2006),その値も極めて良く一致する.したがって,過去約20 Maの間,太平洋中深層水の鉄同位体比変動はなかったと考えられる.