日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS30_28PO1] 古気候・古海洋変動

2014年4月28日(月) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*山田 和芳(早稲田大学人間科学学術院)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、北場 育子(神戸大学内海域環境教育研究センター)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、吉森 正和(東京大学大気海洋研究所)

18:15 〜 19:30

[MIS30-P11] MIROC-ESMをもちいた最終氷期最大期実験初期解析-ダストエアロゾル分布

*大垣内 るみ1阿部 彩子2竹村 俊彦3末吉 哲雄1渡邉 真吾1羽島 知洋1大石 龍太4岡島 秀樹1齋藤 冬樹1近本 めぐみ5河宮 未知生1 (1.海洋研究開発機構、2.東京大学大気海洋研究所、3.九州大学応用力学研究所、4.極地研、5.ハワイ大 IPRC)

キーワード:最終氷期最大期, ダスト, 気候感度, 地球システムモデル

地球システムモデル(ESM)を用いた温暖化予測はIntergovernmental Panel on Climate Change第5次報告書 (IPCC AR5)においても、モデル研究分野からの貢献として重要な役割を担っており、そのESMを用いて古気候実験を行い、気候変化をどの程度再現できるのか、またどういった問題点があるのかを検証することが求められる。特に最終氷期最大期(LGM, 21,000年前)は、比較的最近の最も寒冷化した時期として、気候感度の推定の観点からも注目される時期である。本研究では海洋研究開発機構、東京大学の研究チームによって開発されたESM, MIROC-ESM (Watanabe et al. 2011)を用いてLGMを再現した実験と、特にダストエアロゾル量・分布とデータアーカイブDIRTMAP(Korfeld and Harrison 2001)と比較検討した初期解析結果を報告する。
IPCC AR5に貢献したMIROC-ESMを用いた。大気大循環モデル(AGCM)の水平解像度はT42、鉛直80層で、海洋大循環モデルの水平解像度は約1度、鉛直44層である。本研究に関連するダストを含むエアロゾルモデルSPRINTARS(Takemura et al.2000,2002, 2005)が組み込まれている。
Coupled Model Intercomparison Project phase 5 の指針に従い、西暦1850年相当の地球温暖化ガスレベルを用いた定常実験をPI実験と呼ぶ。PIから、地球の軌道要素と地球温暖化ガスレベル、地形 (大陸氷床、海水準) をLGM設定に変更し準定常状態まで積分した実験をLGM実験と呼ぶ。
PIの気候場は概観でよく現わされている(Watanabe et al. 2011)。LGMのPIからの全球平均気温変化は5.4℃であり、MARGO データセット(MARGO project members 2009)と海水温変化分布を比較して、ばらつきはあるものの良好な再現性である。高緯度では、氷床コアデータが示す南極の気温低下7~10℃(Stenni et al. 2010, Uemura et al. 2012)は再現できているが、グリーンランド中心部の21~25℃の温度低下(Cuffey et al. 1995, Johnsen et al. 1995, Dahl-Jensen et al. 1998)は十分に現わせていない。これは、モデルに共通してみられる問題であり、モデルによる将来予測の信頼性を高める上でこの問題に取り組むことは重要である。原因はさまざま考えられるが、そのうちの重要な一つに、氷床コアにみられる氷期のダスト増加がモデルでは不十分であることが考えられる。そこで、ダストエアロゾル量をDIRTMAPと比較検討した。その結果、PIにおけるダスト量は観測値と比較して概ね再現されたが、南太平洋地域では観測値を下回っている観測点もあり、グリーンランド中心部では観測量よりも一桁大きい。LGMでは、グリーンランド中心部のダスト量は観測値を下回り、南極地域でのダスト量は観測値を2桁下回っている。南太平洋地域でも観測値を下回る量である。他の地域は概ね再現されている。PIで南太平洋での値が低いのは、オーストラリアの降水バイアスのために実際は砂漠に近い気候である地域で植物が繁茂しているためであると考えられ、このバイアスがLGMにも影響を与えている可能性がある。グリーンランドでは、PIとLGMそれぞれのダスト量の再現性に問題があり、これらが修正されればより大きな気温低下を表すことができそうである。LGMでの北半球高緯度のダスト量が低い原因の一つは、モデルで与えられる植生タイプが不変であることから、実際は北半球高緯度で森林からツンドラなどに変わり、LGMでダストを発生できるはずの地域から発生できていない、ということが考えられる。一方南極では、主なダスト供給源と考えられるパタゴニア起源のダストの発生量が少ないことが低いダスト量の原因と思われる。パタゴニアでのダスト発生を阻む要因は土壌水分過多のためである可能性が高く、原因としてPIの降水過多が考えられる。このために、LGMで降水はPIよりも減少するが、ダスト発生の閾値を超えられず、ダスト生成に影響があるのではないかと考えられる。
MIROC-ESMを用いたLGM実験について、ダスト量を中心に調べた。その結果、最新のESMを用いても、高緯度の氷床コアデータが示すようなダスト量の再現は難しく、さらなるモデル改良、ここでは特に植生タイプの変化を取り入れることや、南半球陸上での降水分布の再現性向上が必要であることが示唆された。南極域では、LGMでの氷床コアデータが示す気温低下を再現できているが、ダストの量は再現できていない。つまり、別の理由でそれらしい気温低下値になっている可能性がある。今後、ダスト発生過程の改良と、沈着プロセスの検討や放射強制力の見積もりを行って、モデルの改良案を示したい。