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[MIS31-12] 日本全域を対象地域とした温暖化影響の総合評価のための共通シナリオの開発について
キーワード:気候変動, 温暖化影響, 適応, シナリオ
地球温暖化の影響は多岐にわたるため、日本への影響の全体像を評価し、効果的な適応策を検討するためには、学問分野を横断して専門的知見を集めることが重要である。将来の温暖化の影響を評価する方法として、まず将来の気候と社会経済を定量的に想定し、それらを入力条件として統計モデルあるいはプロセスモデルを利用し、検討対象ごとにシミュレーションを行うのが一般的である。ここで多くの検討対象について入力条件を揃えることができれば、ある将来の気候と社会経済の想定下における日本の影響と適応策を、総合的に捉えることができる。環境省環境研究総合推進費研究プロジェクト「地球温暖化に係る政策支援と普及啓発のための気候変動シナリオに関する総合的研究」(略称:S-8プロジェクト;研究期間:2010~2014年度;課題代表:三村信男茨城大教授)では、我が国における適応策策定の支援と、安全・安心な気候変動適応型社会の実現可能性の評価を目的として、水資源、沿岸、防災、自然植生、農業・食料生産、人間健康を対象分野として、日本全体への温暖化影響の定量評価に関する研究に取り組んでいる。S-8プロジェクトでは、先行研究事例や最新情報の精査を行い、温暖化影響・適応研究における日本の将来気候と社会経済の想定(S-8共通シナリオ)について議論した。またこの議論に基づき、プロジェクトの進行計画に合わせて、各時点において入手可能であった最新情報を利用し、日本全域を対象地域とする時系列・メッシュ型のシナリオを2期(第1版:2011年3月、第2版:2013年11月)に分けて開発した。共通シナリオ第2版では、気候予測情報に関しては、年平均気温・年降水量変化の不確実性幅を捉えることに留意して、Coupled Model Intercomparison Project Phase 5 (CMIP5)に参加した4つの気候モデルによる3つの放射強制力シナリオを前提とした予測実験の出力を利用し、共通シナリオを用意した。さらに、これらと整合的な領域気候モデルを用いた力学的ダウンスケールの結果も、バイアス補正を施したうえで活用した。社会経済シナリオに関しては、人口の総数の予測幅に加えて、その空間分布の変化の不確実性も考慮した9つのシナリオを利用した。さらに、各人口シナリオに整合的な土地利用シナリオも開発した。本セッションでは、分野間連携の実例として、上記のS-8プロジェクトにおける共通シナリオ開発の経緯・手順ならびに開発されたシナリオについて紹介する。また、共通シナリオの開発にあたって認識された今後の課題についても述べる。