日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS34_2PM1] 全球環境変動解明の鍵: 南大洋・南極氷床

2014年5月2日(金) 14:15 〜 16:00 414 (4F)

コンビーナ:*野木 義史(国立極地研究所)、大島 慶一郎(北海道大学北海道大学低温科学研究所)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、座長:野木 義史(国立極地研究所)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)

14:30 〜 14:45

[MIS34-02] 第4の南極底層水:ケープダンレー底層水

*大島 慶一郎1深町 康1ウィリアムス ガイ2二橋 創平3田村 岳史4北出 裕二郎5平野 大輔5青木 茂1若土 正曉1 (1.北海道大学低温科学研究所、2.タスマニア大学、3.苫小牧工業高等専門学校、4.国立極地研究所、5.東京海洋大学)

キーワード:南極底層水, 沿岸ポリニヤ, 海氷生成, 高密度陸棚水, 係留系, ケープダンレー

世界の最も大きな海洋循環は,南極海と北大西洋の2ヶ所で重い水が沈み込み全海洋の深層に拡がりながら徐々に湧き上がることで作られる深層循環である。より冷たくて一番重いのは南極底層水で全世界の底層に拡がっており,南極底層水起源の水は,地球の全海水の30-40%をも占める(Johnson, 2008)。重い水の沈み込みが弱化したり,沈み込む場所が変わると,深層循環が変わり、地球上の気候が激変することになりうる。 南極底層水の生成域は,ロス海・ウェッデル海・アデリーランド沖が3大生成海域として知られている。ウェッデル-エンダービー海盆の東部にも第4の南極底層水の生成域があることが示唆されていたが、それがどこかはよくわかっていなかった。南極底層水は,沿岸ポリニヤでの高海氷生産に伴うブライン排出で生成される重い水が起源になっている。人工衛星からの海氷情報と熱収支計算により南極海で初めて示された海氷生産量のマッピング(Tamura et al., 2008)から、南極昭和基地の東方1,200km、アメリー棚氷の西に位置するケープダンレーポリニヤが南極海で第2位の海氷生産海域であることが明らかになった。そこで、この海域が未知(第4)の南極底層水生成域ではないかと予想し,日本のIPY観測のターゲット海域とした。そして、予想通り,ここが南極底層水の生成域であることを実測で明らかにし、この第4の底層水をケープダンレー底層水(Cape Darnley Bottom Water: CDBW)と名づけた(Ohshima et al., 2013)。 観測では,ケープダンレー沖に4つの係留系を設置し,2008/2009年の1年間の水温・塩分・流速の連続データを取得した。係留系の設置はJAMSTECの白鳳丸で,回収は東京海洋大学の海鷹丸で行われた。この観測によって,重い水が陸棚より峡谷に沿って底層に集中する形で300m程度の厚さを持って流出し、底層水となっていく様子を直接捉えることに成功した。今回の発見は、底層水生成には、今まで広い陸棚・窪地と棚氷が不可欠とされていたが、それらの条件がなくても海氷生成が非常に強力であれば底層水は作られることを示唆するものである。東南極では、ケープダンレー沖ほどではないが、海氷生産量が大きい海域が複数ある。本研究は、これらの海域でも多量ではなくとも底層水ができている可能性を示すものであり,実際に海鷹丸での係留観測から、南極第6位の海氷生産域であるビンセネス湾ポリニヤ沖でも底層水生成のシグナルが観測されている。 係留観測による底層水のフラックスの見積りと、海氷生産量による塩分収支からの見積もりから、全南極海で沈み込む底層水のうちの6-13%程度がこの海域から潜り込んでいると推定した(潜り込む流量は0.3-0.7 Sv)。さらに、ケープダンレー底層水は、徐々に周極深層水と混合しながら西方へ移流され、ウェッデル海(大西洋セクション)の深層水の13-30%を占めると推定した(流量は0.65-1.5 Sv)。今までの底層水循環像を一部描き換えることを提案するものである。大西洋セクションでの底層水は、1980年代より昇温し生成量が減少していることが示唆され(Purkey and Johnson, 2012)、子午面循環の弱化の可能性が指摘されている。加えて、ケープダンレーポリニヤ周辺での海底コアの解析から、ここでの底層水の生成量が2000年スケールで変動していることも示唆されている。以上から、全球的な海洋子午面循環やその変動を考える際にも、今後はケープダンレー底層水を考慮に入れる必要がある。