17:15 〜 17:30
[MIS35-P01_PG] 「大地の遺産100選」の選定と地理学
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:大地の遺産, 自然地理学, 人文地理学, 地誌学, 環境決定論
Ⅰ.日本地理学会と「大地の遺産100選」選定委員会の発足
日本地理学会では、ジオパーク対応委員会を中心に日本の「大地の遺産100選」の選定を目指し、学術大会でのシンポジウムを3回、候補地の選出アンケートを4回行って来た。さらに、2012度には「大地の遺産100選選定委員会」を発足させ、シンポジウムとアンケートの結果から選定作業を進めた。なお、委員のメンバーは日本地理学会の会員であり、地形、植生、気候、水文などの自然分野および、都市、農村、歴史、観光などの人文分野の双方の研究者で構成されている。
本発表では委員によって行われた大地の選定作業の課程を紹介し、選出された「大地の遺産100選」について解説文の内容を考察することで日本地理学会が考える「大地の遺産100選」という価値、および地理学の現状について明らかにする。
Ⅱ.「大地の遺産100選」の選定手順
選定委員会では地理学者の意見を反映すべく、日本地理学会会員への候補地アンケート調査などを数回行った。その結果264ヶ所の候補地が示された(一部重複を含む)。その内訳は以下の通りである。2012年3月の大会シンポジウムにおいて登壇者から155ヶ所、アンケート回答者から40ヶ所の候補地(計195ヶ所)が、2013年3月の大会シンポジウムでは登壇者から7ヶ所、アンケート回答者から38ヶ所の候補地(計45ヶ所)が列挙された。また、2013年5月に実施した日本地理学会代議員への郵送アンケートにより20ヶ所が、2012年度から開始されたウェブサイト上のアンケートによって4ヶ所が加えられた。これらの延べ264ヶ所の候補地のリストを基に、選定委員による各候補地への投票、および議論が2013年7月に行われ、計65ヵ所の大地の遺産が選出された。その後、選定委員による新たな候補地の列挙と投票が行われ、33ヵ所の遺産が追加された。現在、これら98ヵ所の精査と、残りの2ヵ所の選出を行っているところである。
Ⅲ.選出された「大地の遺産100選」
2014年1月現在、98ヶ所の「大地の遺産」が選定されている。これらに新たに2ヵ所を加えた100選のリストは大会発表の時点に提示する予定である。大地の遺産は47都道府県に必ず一つ存在し、例えば根釧原野、八幡平、黒部川扇状地、甲府盆地、志摩半島南岸、足摺岬、姶良火山群などが選出されている。都道府県それぞれに1つ以上存在するのは選定の際の配慮によるものである。その配慮とは大地の遺産の地理教育への活用を意味しているが、一方でその配慮の裏には地理学的価値の評価の難しさが隠れているといえる。つまり、日本の地域どこにおいても地理学的な貴重性が主張できる、一見矛盾した状況として捉えられる。
Ⅳ.「大地の遺産100選」の解説文の内容からみる地理学的価値と方向性
98ヶ所の大地の遺産が選ばれ、それぞれの遺産に対しては、選定理由である解説文が執筆されている。本章では解説文の内容を考察することで地理学的な価値とその方向性を明らかにする。
大地の遺産は複数のサイトからなっているものが大半である。これは、後述するように、候補地内のサイト間にある相互的な視点(ストーリー)が重視されたためである。解説文の内容を検討すると、自然同士、もしくは自然と人間の相互的な関係の記載がみられる。例えば、吉野川上中流域では、堆積岩山地のため急峻な斜面を河川が流れている。このことが前提条件となり、かずら橋などの集落間移動のための橋が作られたという経緯が説明されている。このような自然と人間の関係は他の遺産の解説文でも多くみられる。つまり、「大地の遺産100選」にみる地理学的価値とは、これらの相互的な関係性であると考えられる。
一方、解説文の内容には課題も指摘できる。本発表では主に2つの点を指摘する。まず、解説文の執筆者の専門が自然地理か人文地理かによって、その内容に偏りがみられている。そのため、地理学者は互いの分野についての学習が必要な状況にあるといえる。2つ目の課題に解説文では自然条件が前提条件として記述され、読者にとって環境決定論的な印象を与えているものがあることが指摘できる。これは環境決定論をどのように捉えるかにもよるが、少なくとも同一の自然条件における共通的な人文現象の存在とその科学的な理論を地理学が率先して議論する必要があるといえる。自然現象と人文現象の一般的関係性が科学的に証明されれば、初めて各地域における独特な関係性をも理解することができるであろう。そのことがジオパークに対する地理学の方向性の一つだと考えられる。
日本地理学会では、ジオパーク対応委員会を中心に日本の「大地の遺産100選」の選定を目指し、学術大会でのシンポジウムを3回、候補地の選出アンケートを4回行って来た。さらに、2012度には「大地の遺産100選選定委員会」を発足させ、シンポジウムとアンケートの結果から選定作業を進めた。なお、委員のメンバーは日本地理学会の会員であり、地形、植生、気候、水文などの自然分野および、都市、農村、歴史、観光などの人文分野の双方の研究者で構成されている。
本発表では委員によって行われた大地の選定作業の課程を紹介し、選出された「大地の遺産100選」について解説文の内容を考察することで日本地理学会が考える「大地の遺産100選」という価値、および地理学の現状について明らかにする。
Ⅱ.「大地の遺産100選」の選定手順
選定委員会では地理学者の意見を反映すべく、日本地理学会会員への候補地アンケート調査などを数回行った。その結果264ヶ所の候補地が示された(一部重複を含む)。その内訳は以下の通りである。2012年3月の大会シンポジウムにおいて登壇者から155ヶ所、アンケート回答者から40ヶ所の候補地(計195ヶ所)が、2013年3月の大会シンポジウムでは登壇者から7ヶ所、アンケート回答者から38ヶ所の候補地(計45ヶ所)が列挙された。また、2013年5月に実施した日本地理学会代議員への郵送アンケートにより20ヶ所が、2012年度から開始されたウェブサイト上のアンケートによって4ヶ所が加えられた。これらの延べ264ヶ所の候補地のリストを基に、選定委員による各候補地への投票、および議論が2013年7月に行われ、計65ヵ所の大地の遺産が選出された。その後、選定委員による新たな候補地の列挙と投票が行われ、33ヵ所の遺産が追加された。現在、これら98ヵ所の精査と、残りの2ヵ所の選出を行っているところである。
Ⅲ.選出された「大地の遺産100選」
2014年1月現在、98ヶ所の「大地の遺産」が選定されている。これらに新たに2ヵ所を加えた100選のリストは大会発表の時点に提示する予定である。大地の遺産は47都道府県に必ず一つ存在し、例えば根釧原野、八幡平、黒部川扇状地、甲府盆地、志摩半島南岸、足摺岬、姶良火山群などが選出されている。都道府県それぞれに1つ以上存在するのは選定の際の配慮によるものである。その配慮とは大地の遺産の地理教育への活用を意味しているが、一方でその配慮の裏には地理学的価値の評価の難しさが隠れているといえる。つまり、日本の地域どこにおいても地理学的な貴重性が主張できる、一見矛盾した状況として捉えられる。
Ⅳ.「大地の遺産100選」の解説文の内容からみる地理学的価値と方向性
98ヶ所の大地の遺産が選ばれ、それぞれの遺産に対しては、選定理由である解説文が執筆されている。本章では解説文の内容を考察することで地理学的な価値とその方向性を明らかにする。
大地の遺産は複数のサイトからなっているものが大半である。これは、後述するように、候補地内のサイト間にある相互的な視点(ストーリー)が重視されたためである。解説文の内容を検討すると、自然同士、もしくは自然と人間の相互的な関係の記載がみられる。例えば、吉野川上中流域では、堆積岩山地のため急峻な斜面を河川が流れている。このことが前提条件となり、かずら橋などの集落間移動のための橋が作られたという経緯が説明されている。このような自然と人間の関係は他の遺産の解説文でも多くみられる。つまり、「大地の遺産100選」にみる地理学的価値とは、これらの相互的な関係性であると考えられる。
一方、解説文の内容には課題も指摘できる。本発表では主に2つの点を指摘する。まず、解説文の執筆者の専門が自然地理か人文地理かによって、その内容に偏りがみられている。そのため、地理学者は互いの分野についての学習が必要な状況にあるといえる。2つ目の課題に解説文では自然条件が前提条件として記述され、読者にとって環境決定論的な印象を与えているものがあることが指摘できる。これは環境決定論をどのように捉えるかにもよるが、少なくとも同一の自然条件における共通的な人文現象の存在とその科学的な理論を地理学が率先して議論する必要があるといえる。自然現象と人文現象の一般的関係性が科学的に証明されれば、初めて各地域における独特な関係性をも理解することができるであろう。そのことがジオパークに対する地理学の方向性の一つだと考えられる。