日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT42_2AM2] 地球化学の最前線:先端的手法から探る地球像

2014年5月2日(金) 11:00 〜 12:45 314 (3F)

コンビーナ:*横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 海洋底科学部門/地球表層圏変動研究センター)、鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、橘 省吾(北海道大学大学院理学研究院自然史科学専攻地球惑星システム科学分野)、平田 岳史(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、鈴木 勝彦(独立行政法人海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域)、下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、角野 浩史(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)、高橋 嘉夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、横山 哲也(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、座長:鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、橘 省吾(北海道大学大学院理学研究院自然史科学専攻地球惑星システム科学分野)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 海洋底科学部門/地球表層圏変動研究センター)

11:15 〜 11:30

[MTT42-09] 分光式質量分析計による石筍中の流体包有物の水の同位体組成測定法の開発

*植村 立1仲本 壮志1儀保 雅一1三嶋 悟1浅海 竜司2 (1.琉球大学 理学部 海洋自然科学科、2.琉球大学 理学部 物質地球科学科)

キーワード:安定同位体比, 流体包有物, 鍾乳石, 石筍, 古気候, CRDS

氷床コアと同様に過去の環境変動を記録し、かつ正確に年代が決定できる鍾乳石は、近年世界中で盛んに研究されている。なかでも、石筍の酸素同位体比 (δ18O) はモンスーン強度の復元などに利用されるが、降水や気温など様々な要因がその変動に寄与していると考えられ、その解釈は容易ではない。一般に、石筍の内部にはCaCO3を生成した原料の滴下水が保存されていることが多い。高湿度の鍾乳洞内では、蒸発に起因する同位体分別が生じないため、石筍に含まれる流体包有物の水は、滴下水の同位体比を保存していると考えられる。CaCO3を生成した水 (H2O) とCaCO3のあいだの酸素同位体比の差は、温度のみに依存すると予想されるため、これに基づいて石筍生成時の気温を定量的に復元できると考えられる。これまでの研究では、水の同位体比は、水を他の気体に変換した後で磁場型の質量分析計を用いて測定されてきた (e.g. Dennis et al., 2001) 。本研究では、測定の簡略化を目指して、抽出した水の同位体比を水分子のままキャビティーリングダウン式分光計 (CRDS) で測定するラインを作成した。測定ラインは、真空下で水を抽出する前処理部と水同位体比を測定する検出器(L2130-I Picarro)から構成されている。市販の液体試料を気化しCRDSに導入する装置(Vaporizer, V1102-I, Picarro Ltd.)を参考にして、少試料量での測定に適した気化装置を制作した。開発した気化装置は内容積の小型化などにより、市販装置の約10分の1の試料量で測定可能となった。石筍中の流体包有物の測定精度は、同位体比が均一な同一層から石筍試料を複数切り出し、測定することで評価した。測定した石筍試料の重さは平均151 mg (77 - 286 mg )で、抽出された水の量は平均0.12 micro-L (0.01-0.26 micro-L)、同位体比測定の繰り返し精度はδ18Oで±0.2permil、δDで±1permilであった。この結果は、一般に高精度・高感度であるとされるIRMSを用いた研究と比較しても最高精度の研究と同等であり、必要試料量についてはこれまでの研究よりも少ない。年代が現在に近い沖縄の石筍の流体包有物の同位体組成は、現在の沖縄の降水と誤差範囲内で一致していた。この結果は、石筍中の流体包有物から過去の降水の同位体比組成を保存していることを示している。