日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT42_2AM2] 地球化学の最前線:先端的手法から探る地球像

2014年5月2日(金) 11:00 〜 12:45 314 (3F)

コンビーナ:*横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 海洋底科学部門/地球表層圏変動研究センター)、鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、橘 省吾(北海道大学大学院理学研究院自然史科学専攻地球惑星システム科学分野)、平田 岳史(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、鈴木 勝彦(独立行政法人海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域)、下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、角野 浩史(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)、高橋 嘉夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、横山 哲也(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、座長:鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、橘 省吾(北海道大学大学院理学研究院自然史科学専攻地球惑星システム科学分野)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 海洋底科学部門/地球表層圏変動研究センター)

12:30 〜 12:45

[MTT42-13] 「軽い」アミノ酸と地球化学の接点

*高野 淑識1力石 嘉人1大河内 直彦1 (1.海洋研究開発機構)

キーワード:アミノ酸, 地球化学, 第3の生物界「アーキア」

1. はじめに 近年、「地下圏あるいは地球深部」のサイエンスで最も興味深いトピックの一つは、「Deep Biosphere」(地下生物圏あるいは地下生命圏とも呼ばれる)であろう。その共通概念は、異分野間でも広く認識されるようになった。地球科学と生命科学を分野横断的にカバーする新しい分野とも言える。ある環境から「地下生物圏」ではなく、化学(純粋な物質組成のみ)と物理(温度、圧力、pH等)のみが支配する「非生命圏」となる。ミクロな世界で駆動されている有機的な地球化学プロセスは、分子情報として入手することができる。最先端の知見をさらに詳しく明らかにするためには、分子レベルで解読できるような新しい技術開発が、一つの鍵になる。2. 氾世界的に存在する第3の生物界「アーキア」(Archaea)と物質循環 新しい生物界「アーキア(古細菌)」の提唱以来 (Woese and Fox, 1977)、その存在は、高温や高塩等の極限環境だけでなく、海洋(水柱・海底下)や陸上(水圏・土壌)を問わず、広汎的に棲息する原核生物であることが理解されるようになった。近年、これまで認知されてきたアーキアの2大門レベルであるユーリアーキオータ門およびクレンアーキオータ門の他、さらに新しい分類群のタウムアーキオータ門、コルアーキオータ門、ナノアーキオータ門の多様性が見えつつある。 アーキアは、全球的な物質循環の主役の一つともいえる。炭素の形態は、最も酸化的なCO2、最も還元的なCH4、そしてその中間である有機態炭素Cn(H2O)mの3つである。海底下に広く棲息するメタン生成アーキアは、深部の還元環境でもメタンを生成している(cf. Coenzyme F430: Takano et al., 2013)。地下圏には、逆に、メタンを炭素源にする嫌気的メタン酸化アーキア群も存在する。そのANME (Anaerobic Methanotroph)-1, ANME-2, ANME-3と呼ばれる系統分類群は、メタンを生化学的に分解している。さらに、嫌気的メタン酸化アーキア群集の中では、窒素固定が行われていること(Dekas et al., 2009)、そのメタン酸化アーキアは、メタン生成の逆反応から炭素源を同時に得ていること(Shima et al., 2012)等の発見が相次いでいる。3. 中央代謝系としてのアミノ酸の重要性 原核生物1細胞あたりの化学組成を比較すると、主にタンパク質、核酸、炭水化物、脂質の4つに分類される。このうち、タンパク質の割合は優に5割を超え、中央代謝としての役割が大きい。タンパク質は、アミノ酸の基礎単位がペプチド結合で連なる生体高分子である。構造タンパク質と触媒タンパク質(酵素)という2つの主要なタンパク質群があり、いずれも加水分解するとα-アミノ酸が得られる。近年、このアミノ酸分子の同位体組成の規格式を用いて生態学的な食性を定量的に解析する研究が進められている(e.g., Chikaraishi et al., 2009)。アミノ酸は、地球生物圏(地下生物圏も含む)での合成と分解の間で凖安定的に存在し、生細胞内の中央代謝系としてだけではなく、食性連鎖を通した生体エネルギーの転換の担い手としても重要である。ここでは、最近になって分かってきたアミノ酸分子の知見から、地球化学的に重要な接点の一つを探ってみたい。【References】Ohkouchi, N. and Takano, Y. Organic nitrogen: sources, fates, and chemistry. Treatise on Geochemistry, 10: Organic Geochemistry (Edited by Birrer, B., Falkowski, P., Freeman, K.), Vol. 12, Elsevier, pp. 251-289 (2014).Takano et al., Detection of coenzyme F430 in deep-sea sediments: A key molecule for biological methanogenesis. Organic Geochemistry, 58, 137-140 (2013).Chikaraishi et al., Determination of aquatic food-web structure based on compound-specific nitrogen isotopic composition of amino acids. Limnology and Oceanography: Method, 7, 740-750 (2010).