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[PEM30-04] 太陽光球起源の吸収線プロファイルで探る対流運動の高さ方向の動的構造
キーワード:太陽, 対流, スペクトル, 光球
太陽表面では全面に渡り、粒状斑と呼ばれる小さな粒状の模様が見られ、その周りは粒状斑間隙と呼ばれる暗い レーンで囲まれている。これらの構造は対流運動によって形成されている。太陽表面の対流運動は、上空にあるコロナの加熱や磁場のダイナミックスを起こすエネルギーの源であることから、対流運動について理解することは、 これらの物理を明かす上で重要な意味がある。しかし、その空間スケールの小ささから粒状斑構造を分離した観測は困難であった。さらに、対流運動では高さ方向の構造が重要であると考えられるが、光球よりも内部を直接観測する手段は限られているため、観測的に高さ方向の構造を捉えることは難しかった。我々は、太陽観測衛星「ひので」に搭載された可視光磁場望遠鏡 (Solar Optical Telescope : SOT) で取得されたスペクトルデータの解析から、これら太陽表面対流の粒状斑構造、および高さ構造の直接観測を試みた。SOTのストークスポラリメータ(Stokes Polarimeter : SP)は、Fe I の 630.15/630.25nm の吸収線の偏光プロファイルを精密計測している。SOT は優れた空間・波長 分解能を持ち、粒状斑、粒状斑間隙それぞれを空間的に分解した詳細な線輪郭の形状について調べることができる。シーイングフリーである宇宙空間で観測を行っていることから、地上望遠鏡では難しい長時間観測が安定して実行できる。本研究ではこの長時間観測によって、太陽表面に現れる放射強度、速度場の時間的変動である5分振動を取り除くことで、より精密な解析が可能となった。静穏領域にて観測された強度プロファイル (Stokes I) の線輪郭に注目した。太陽表面上での対流運動による線輪郭のドップラーシフトを調べることで、粒状斑の上下運動速度を得ることができる。これに加えて、我々は線輪郭の波長方向の構造に着目した。波長毎の吸収系数の差から、線輪郭の中心波長付近では高度が高い位置を、ウィング部分では低い位置を反映する。本研究では、この波長依存性を利用して、対流運動の高さ方向の動的構造を調べた。太陽表面上部と下部において、300m/s程度の典型速度差が見られた。1km/s 以上の差が生じている場所も観測された。これらの値は、太陽光球の音速が7km程度であることを考慮すると、無視できない大きな加速、減速が太陽表面付近で起こっていることを意味している。また、粒状斑と粒状斑間隙において、異なった対流速度の変化が見られた。上昇流が発生している粒状斑では、太陽内部から減速的に対流が上昇していく一方、下降流が発生している粒状斑間隙では、上部から内部に向かって加速する傾向が捉えられた。しかしながら、これらの典型的な例に従わない場所も幾つか存在している。講演では、これらの解析から得られた太陽表面対流の典型構造の描像や、それに従わない場所についての議論を行いたい。