日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM36_28AM1] 大気圏・電離圏

2014年4月28日(月) 09:00 〜 10:45 312 (3F)

コンビーナ:*大塚 雄一(名古屋大学太陽地球環境研究所)、津川 卓也(情報通信研究機構)、川村 誠治(独立行政法人 情報通信研究機構)、座長:新堀 淳樹(京都大学生存圏研究所)、川村 誠治(独立行政法人 情報通信研究機構)

09:15 〜 09:30

[PEM36-02] パッシブレーダの研究開発―地上デジタル放送波を用いた水蒸気推定手法の開発―

*川村 誠治1太田 弘毅1花土 弘1 (1.情報通信研究機構)

キーワード:パッシブレーダ, 地上デジタル放送波, 水蒸気, 伝搬遅延

パッシブレーダとは、自ら電波を発射する従来型レーダとは異なり、他の目的で既に使用されている電波を利用して何がしか有効な情報を得るレーダシステムである。新たな周波数を必要としないため究極の周波数有効利用ということができる。情報通信研究機構(NICT)では、これまで蓄積されてきたリモートセンシングの技術、特にバイスタティック受信技術の延長としてパッシブレーダを捉え、環境計測を目的としたパッシブレーダ開発を進めている。本研究では、パッシブレーダ開発の一環として地上デジタル放送波を用いた水蒸気推定手法の開発を行っている。近年都市部で局地的大雨等の局所的で激しい気象現象が多発しているが、現状その予測は困難である。予測が困難である主要な原因の一つに、観測の欠如が挙げられる。雨の元である水蒸気の情報は降雨予測に非常に重要だが、その観測手段は未だ限られている。現在有効な水蒸気観測手段としてGPSを用いた手法があるが、空間スケール数kmで時々刻々変化する局地的大雨の予測には分解能が不足している。本研究では、空間分解能数km、時間分解能30秒程度で面的に広範囲の水蒸気を常時モニターするシステムの開発を目指している。電波は伝搬の過程で水蒸気による遅延を受ける。この遅延量が計測できれば、伝搬路上の水蒸気積算値を推定することができる。例えば伝搬距離が10 kmの場合、相対湿度20 %と100 %では遅延時間差が約2.7 nsである。有効な観測のためにはサブナノ秒の精度で遅延時間を精密測定する必要がある。地デジ波はOFDM方式で符号化されており、その中には既知信号が埋め込まれている。既知信号から複素遅延プロファイルを算出しその位相を用いることで、原理的には約4.5 ms毎に伝搬遅延を高精度(ピコ秒オーダー)に求めることが可能である。サブナノ秒の精度を議論する場合、電波塔(スカイツリー)側、受信局側のそれぞれの局発の位相変動が大きな誤差要因となる。そこで、スカイツリーを含む直線上に2つの受信点を設け、それぞれで遅延時間を測定する。この測定値にはスカイツリーと受信局それぞれの局発の位相変動が含まれているが、両者の差を取ることでスカイツリー側の位相変動を相殺することができる。残った2地点間の位相変動差を同期により相殺することで、水蒸気量を推定する。地デジ波を受信し、リアルタイムで遅延量(遅延プロファイルの位相)を測定するシステムをソフトウェア無線の技術を用いて開発した。本システムにより、地デジ波を受信するだけで放送局の局発の位相変動までリアルタイムで測定できるようになった。この測定システムをスカイツリーを含む直線上の2地点に配置してそれぞれの局発を同期させれば、2地点間の水蒸気量に相当する遅延量を求めることができる。現在同期手法について検討を進め、実証実験を計画している。水蒸気推定の実証ができれば、装置の小型化を進め、多点展開を行っていく予定である。他観測やデータ同化と連携し、実用システムの構築を目指す。