日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM36_28AM1] 大気圏・電離圏

2014年4月28日(月) 09:00 〜 10:45 312 (3F)

コンビーナ:*大塚 雄一(名古屋大学太陽地球環境研究所)、津川 卓也(情報通信研究機構)、川村 誠治(独立行政法人 情報通信研究機構)、座長:新堀 淳樹(京都大学生存圏研究所)、川村 誠治(独立行政法人 情報通信研究機構)

09:30 〜 09:45

[PEM36-03] 隣接した2基の1.3 GHzウィンドプロファイラレーダーによる福井県嶺北地方における局地循環の観測

*中城 智之1山本 真之2青山 隆司1橋口 浩之2宇治橋 康行3 (1.福井工業大学 電気電子情報工学科、2.京都大学生存圏研究所、3.福井工業大学 建築生活環境学科)

キーワード:大気境界層, 局地循環, 海陸風循環, 豪雨, ウィンドプロファイラレーダー

私達の生活様式が引き起こす地球規模の環境変動の私達への影響が懸念されるようになって久しい。大気関係では,近年,頻度と被害の大きさが増加傾向にある豪雨は,地球温暖化との関係が指摘されている。また,大気汚染物質の問題では,黄砂やPM2.5に代表される微小粒子状物質による健康被害に加え,解決済みと思われてきた光化学オキシダントの濃度が1980年代以降,全国的に再び増加に向かっていることが知られている。さらには,2011年に発生した福島第一原子力発電所の事故以降,放射能の拡散状況に世界的な関心が向けられている。これらの大気環境問題の解決のために,その実態を明確に把握することが求められている。これらの大気環境問題は地球規模であると同時に局所的でもある。すなわち,豪雨の発生や大気汚染物質の拡散は,地形などの地域毎の特徴によって異なって発生する風系,いわゆる局地循環の影響を強く受ける。局地循環が卓越する高度は地表から数km以下の大気境界層であり,代表的な局地循環として,地表温度のコントラストに伴って発生する海陸風や山谷風が知られている。大気境界層は,地表との摩擦や地表からの熱輸送の影響によって発生する大気乱流が支配的な大気層であり,その実態は地域ごとに大きく異なる。したがって,上記の大気環境問題の解明には,地域毎に局地循環の特徴を明らかにすることが必要不可欠である。このような背景の下,福井工業大学では文部科学省の戦略的研究基盤形成支援事業「北陸地域の環境の計測と保全に関する研究拠点形成」プロジェクト(平成23-27年度)において,福井県沿岸域に立地する福井工業大学あわらキャンパスに1.3GHzウィンドプロファイラレーダー(Wind Profiler Radar;WPR)が設置され,福井平野における局地循環の実態を把握することを目的として2012年12月から連続観測を実施している。これまでの観測から,福井平野における海陸風循環の時間変化および高度構造の詳細が明らかとなった。また,日射の影響で海陸風循環が恒常的に発生しており,雲の発生に影響を及ぼしている事,さらに,直線距離で24 kmの極めて近距離にある気象庁WINDAS福井局との比較から,海陸風循環が海岸線方向および内陸方向に数10 kmの水平スケールで発生しており,しばしば3層構造となる事が明確となった。これらの事は気象学的には基本的な事柄であるが,福井県嶺北地方において海陸風循環の空間的・時間的実態をこれほど詳細に示した例は他にない。また,WINDAS福井局との比較では,高度約1 km以下の下層において,24 kmの近距離であっても異なる水平風がしばしば観測される。この事は,大気境界層の観測の重要性を改めて示している。また,台風17号に伴う停滞前線の通過によって,福井県嶺北地方の広い範囲で14時から16時にかけて豪雨を観測した2013年9月3日の観測データについて解析を行った。その結果,13時頃の停滞前線の通過に伴う典型的な水平風の変化が検出された。WINDAS福井局でも同様の水平風が観測されており,本学WPRで観測された水平風構造の妥当性が裏付けられると同時に,前線通過に伴う広範囲に存在する風系であることが確認された。本学WPRでは前線通過時刻(13時頃)の7時間前から,1 m/sに達する比較的強い上昇流が高度200 mの下層から高度4~5 kmまでの広い範囲で断続的に発生していたことが確認された。さらに,豪雨が嶺北地方各地で観測され始めた14時の2時間前に,高度4~5 kmにおいて短時間ではあるが,4 m/sにも達する極めて強い上昇流が観測された。同日のMTSATでは,午前中から豪雨の発生した時間帯にかけて,光学的に厚い雲が福井県嶺北地方に収束する様子が確認されており,観測された上昇流は福井県嶺北地方に豪雨をもたらした積乱雲システムの一部であると推測される。一方,WINDAS福井局ではこれほど顕著な上昇流は観測されておらず,豪雨時における上昇流の水平スケールが,本学WPRとWINDAS福井局間の直線距離24 kmよりも小さいことが強く示唆された。すなわち,豪雨発生予測の観点からは,隣接した複数のWPRによる観測によって,豪雨の原因となる積乱雲システム到来の前兆である下層の上昇流を効率よく検出可能となると考えられる。本研究で得られた成果は,近接した複数のWPRによる局地循環観測が局所的な気象予測の精度向上や豪雨の発生予測に極めて有効なツールであり得ることを強く示唆している。