日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM36_28PM2] 大気圏・電離圏

2014年4月28日(月) 16:15 〜 18:00 312 (3F)

コンビーナ:*大塚 雄一(名古屋大学太陽地球環境研究所)、津川 卓也(情報通信研究機構)、川村 誠治(独立行政法人 情報通信研究機構)、座長:松村 充(電気通信大学附属宇宙・電磁環境研究センター)、横山 竜宏(情報通信研究機構)

17:15 〜 17:30

[PEM36-P13_PG] 電離圏観測ロケットのウェイク周辺においてプラズマ波動を励起する電子の速度分布の検討

ポスター講演3分口頭発表枠

*遠藤 研1熊本 篤志1加藤 雄人1 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

キーワード:電離圏, 観測ロケット, ウェイク, プラズマ波動, ブラソフシミュレーション

プラズマ中を超音速で運動する物体の後方にはウェイクと呼ばれるプラズマの希薄な領域が形成される。ウェイクは観測ロケットや人工衛星など宇宙機の後方に生じる他、太陽風プラズマと天体の相互作用によっても作られることが知られている。人工衛星や月のウェイク近傍ではこれまでプラズマ波動が観測されているが、観測ロケットに関しては、そのウェイク近傍でプラズマ波動が励起することを指摘する研究は多くない。しかしながら、1998年、2012年に鹿児島で行われたロケット実験の波動観測の結果は、ロケットのウェイク近傍でも波動励起現象が起きていることを示唆している。ロケットのウェイク近傍におけるプラズマ波動の励起過程を解明することは、ロケット観測で取得される波動データのより正確な解釈だけでなく、プラズマ流と非磁化物体の相互作用に起因する普遍的な物理素過程の理解のためにも重要である。
これまでの解析により、2012年のS-520-26ロケット実験で観測された3種類のプラズマ波動は、その周波数から、静電的電子サイクロトロン高調波(ESCH)及びUHRモード波動、ホイッスラーモード波動である可能性が高く、それぞれある特徴的なスピン位相角依存性をもつことが明らかになっている。これらの結果は、プラズマ波動がロケット周囲に空間非一様に励起・成長していることを示唆している。電離圏の電子の速度分布にビーム成分や温度異方性を与えた分布を仮定し波動の分散関係を数値的に求めたところ、UHRモード波動、ESCH波動の他、静電的ホイッスラーモード波動の波数、周波数領域で波が成長する解が得られている。このことから、仮定した速度分布と等価的な速度分布がウェイク近傍に存在していたと考えられるが、実際にどのような速度分布関数がどのような空間分布で存在しうるかは今後検証するべき課題である。
Singh et al. (1987)は、ブラソフ-ポアソンコードを用いて一次元の真空中に両側からプラズマが流れ込む現象を模擬することで、物体のごく近傍のウェイクでは二流体不安定型の速度分布関数が得られることを示した。しかし、同論文で議論に取り上げられているのはウェイク軸上の速度分布関数のみであり、それ以外の領域での分布関数については特に言及されていない。また、速度空間の次元については拡散方向一次元のみの議論にとどめられており、電子の異方性に関しては指摘されていない。
そこで我々は、ウェイク近傍における速度分布関数の空間分布について考察するため、Singh et al. (1987)の方法を僅かに改変した、空間一次元(磁場方向)、速度空間二次元(磁場方向とそれに垂直な方向)の静電ブラソフシミュレーションを検討している。具体的には、一次元空間に設けた真空領域に電子、イオンが拡散していく状況を考え、シミュレーションの時間発展はウェイクの軸方向の空間変化として解釈する。電子・イオンが拡散する磁力線の方向に長さ10 mの1次元空間をとり1024 gridに分割して計算を行う。
本発表では、S-520-26ロケット実験の観測結果をもとに,ウェイク近傍のプラズマ波動の周波数帯域および空間分布を明らかにし、励起に寄与しうる電子の速度分布に関して議論を行う。併せて、プラズマ波動を励起しうる速度分布をもつ電子がウェイク近傍にどのように空間分布するかを明らかにするために開発を進めているシミュレーションコードについて紹介し、その計算初期結果について報告する。