日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS03_29AM1] Rotation, inner dynamics and natural processes on the Earth, the Moon and Mars

2014年4月29日(火) 09:00 〜 10:30 424 (4F)

コンビーナ:*Barkin Yury(Sternberg Astronomical Institute, Moscow State University, Moscow)、Hideo Hanada(RISE Project, National Astronomical Observatory)、Koji Matsumoto(RISE Project Office, National Astronomical Observatory)、Wen-Bin Shen(Dept of Geophysics, School of Geodesy and Geomatics, Wuhan University)、Mikhail Barkin(Moscow Aviation Institute)、座長:Barkin Yury(Sternberg Astronomical Institute, Moscow State University, Moscow)、花田 英夫(国立天文台RISE月惑星探査検討室)

10:15 〜 10:30

[PPS03-P02_PG] 地球の大規模な真の極移動の速度の粘性構造依存性:地球マントル内部の低粘性領域が緩和モードの時定数に及ぼす潜在的影響の評価

ポスター講演3分口頭発表枠

*原田 雄司1肖 竜1 (1.中国地質大学地球科学学院行星科学研究所)

キーワード:真の極移動, 地球, マントル, 低粘性層, 緩和モード, 時定数

地球の真の極移動の速度に与えるマントル内部の低粘性層の影響に関しては,それ程には多くないが幾つかの研究が行なわれている.種々の地球物理学的制約から,地球マントル,特に最上部や最下部において著しく粘性の低い層が存在する,という可能性が指摘されている.このような極端な粘性の差異は極移動にも或る程度の影響を及ぼす,という事が上述の先行研究で調べられている.
但し,これらの研究で取り扱われていたのは比較的小規模な極移動である.それらのモデル計算は主として後氷期回復による質量再分配に伴なう極移動を想定していた.この場合,極移動の典型的な時間スケールは地質学的時間スケールと比べて短く,概ねマントルの粘弾性変形の特徴的時間スケールを反映する.そのような極移動の振幅は大きくても数度程度であり,線形近似された極運動方程式を適用するのが定石である.その一方,今の所,数十度程度の大規模な極移動に対する低粘性層の潜在的影響について議論された研究例は無い.
このような地球内部における粘性の不均質性の影響を検討する事は,観測量から導かれた極移動のシナリオ,特にその時間変化の妥当性を定量的に評価する上で重要であると考えられる.実際の地球の太古の極移動は古地磁気を初めとする地質学的状況証拠から推定されているが,この種の筋書きは上記のようなモデル計算に基づいて初めて物理的に解釈され得る.そのような変遷が起こり得る力学的条件を考察する事によって,当時の粘性構造を制約する観点において有益な情報が得られると期待される.こうした議論をする為には前述のような物理的に特殊な層の効果も重視すべきかもしれない.
そこで本研究では,地球マントル内部における低粘性層の存在が極移動の時間スケールに及ぼす影響について定量的評価を試みた.特に地球内部の力学的応答を特徴付ける粘弾性ラブ数のモデル計算を実施し,ラブ数に含まれる複数の緩和モードの強度と時間スケールの粘性構造に対する依存性について調査した.更にそれらの緩和モードの構造依存性を極移動速度の構造依存性と比較した.尚,数値計算の都合上,緩和モードの算出に際しては地球の層構造を簡略化し,かつ非圧縮性を仮定した.
本計算においては,極運動方程式を非線形のままで積分可能とする準流体近似を適用した.その根拠は,ここで取り扱うような大規模な極移動の場合では線形近似を使えないからである.この準流体近似の適用範囲に従い,ここではアセノスフェアの粘弾性変形の特徴的時間スケールよりも遅い荷重の進化を仮定した.
上述の計算の結果,極移動の時間スケールはほぼ最長期の緩和モードにのみ依存している事が分かった.ここで特筆すべき点は,この極移動において支配的な緩和モードの強度が粘弾性ラブ数全体に占める比率は,実は余り大きくないという事である.それは換言すれば,潮汐変形の振幅がより卓越する他のモードは,極移動の時間スケールに対しては殆んど影響しない事を意味する.これは一見すると奇妙な結果に感じられるかもしれない.
このような依存性を示す理由は,前述した最長期のモードの時間スケールだけが他のモードと比較して桁違いに長いからである.緩和の時定数が長いモードは,たとえ振幅が小さくても長期的に自転軸を安定化する作用を有する.逆に振幅が大きくても時定数が短いモードでは速やかに緩和する為,自転の長期的安定性に対する寄与は小さい.
この結果を踏まえるならば,極移動速度の構造依存性も概ね,この最長期のモードの緩和時間の依存性のみ反映していると言える.実際には,たとえマントル内部の低粘性層を含まない内部構造を仮定しても,このモードの影響は依然として支配的である.そして低粘性層が存在する場合,その粘性が低くなると,それに応じてこの最長モードの時間スケールも短くなる.最も短い場合では四割にも満たない.但し粘性が或る値よりも低くなると,このモードの時間スケールは一定の値に漸近する.この傾向の理由は,この層の粘性が低過ぎる為,充分に長い時間スケールでは実質的に粘弾性体ではなく流体として振る舞うからである.
以上の計算結果から得られる結論は,一般に地球内部の低粘性層の存在は大規模極移動の時間スケールを短くする事,そしてその影響は主に最長期の緩和モードの時間スケールの変化に起因する事である.確かに地球の大規模極移動の時間スケールの内部構造依存性に関しては既に既存の研究でも議論されている.しかし以前の研究ではマントルの粘性構造が単純化され,その中の低粘性層の影響について検討されていなかった.かつ極移動速度を強く支配している要因も明確には指摘されていなかった.それに対して今回の研究では,この層の影響を明示的に含む極移動の時間スケールを見積もり,不均一な粘性構造が大規模極移動に与える影響が無視出来ない事を示した.